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こんなにもまだ君が愛しいんだ

 我愛羅は変わった。
 めったに見せない笑顔を浮かべるようになった。
 前よりずいぶん大人になった。人と接するのも多くなって……。

 会うたびにどんどん我愛羅は遠くなっていってしまう、お互いの分からないこと、知らないことがふえて他人のように思えてしまう。
 もう私が関わっていい人間じゃないこと、次に会えば今より他人になるのは目に見えていた。


 だから私は我愛羅が風影になってから少しずつ距離をおいてった。
 我愛羅はもう独りじゃない。私一人のために時間を使うことなんてない。私なんかが彼を独占するにはあまりにも不相応でいたたまれない。

 私なんかに夢を語ってくれた、あのときの笑顔と強い信念を間近に見れただけでも、十分に良かったと思ってる。
 あの時、心が揺れたのは我愛羅が私にもたらしたもので、我愛羅にだけしか抱けない感情が芽生えた。

 我愛羅が好きだよ。いつかそう言いたかったけど、今の我愛羅には伝えることはできない。


 感情を隠して過ごすには忍のため難なくこなせた。仕事だけでも繋がることができるならそれだけでも嬉しかった。

 嬉しいけどなるべく会いたくなかった。本気で我愛羅のことが好きで、振り向いて欲しくて、積った想いで胸が苦しくなるばかりで……嫌になるからだ。



 ある日、そんな気持ちを微塵もしらない班員は私に報告書の提出を頼んできた。いつも報告書の提出は任せてたから断るにも断れなくて仕方なく受け取った。

 私は陰鬱な気持ちを抱えたまま、最低限の会話しかしないと心に決めて執務室のドアを開けた。
 業務的で、気持ちが差し込まれていない淡白な報告を終えると思いのほか「話がある」と風影様から切り出してきた。


「名前はなぜオレから離れていった。昔は親友とも言えるほど親しい間柄だった。もしや、オレが無自覚に傷つけてしまう失言をしまったのか?」

「そんな事はありません。ただ個人的な事情で……風影様はもう皆のもので私はただのその一人に過ぎませんので配慮させて頂いた結果に過ぎません」


 彼は立ち上がったかと思うとすぐさま私の真正面にむかいあう、鬼気迫る様子でそのまま腕を拘束されて困惑する。


「そんなことは認めない、その程度の些細な事で絶たれる繋がりではないはずだ」


 逃げるべきだと分かっていても振り払えなくて、吐息さえもかかる距離に我愛羅の顔があった。覗き込んでくる瞳はどこか不安定だった。


「名前はオレから離れるな」


 何か言い返そうと思ったけど「名前は親友だからな」と耳に届いた瞬間発言を許さないとでも言いたげに唇が重なった。

 親友という言葉に愕然としつつも、親友の間柄ではない行為の事実に歓喜しつつも打ち震える。
 まだ判別しない想いを抱いて苦しんでいるのだと分かって昔と変わらず不器用なところが我愛羅らしくて今だに愛おしくて切なくてかき乱された。
 


お題配布元:秋桜

2021.08.14

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