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オレのだ、という牽制

 休憩時間、少し外の空気でも吸いに執務室から出ると「風影様、休憩中にすみません」と名前から声がかけられる。


「確認だするだけでいいので少しお時間頂けないでしょうか」

「ああ」


 名前が身体を隣に寄せてきて書類を見せてくる。
 名前が手に持っている書類を確認するために覗き込むと自然と密着する形となってふわりと名前の匂いが香る。

 だがほんの微かに名前の香りに混ざって名前のものではない誰かの匂いが混ざっていた。


 名前に「それで問題ない」と短く告げ、続けて「名前。それと、さっきまで誰といた?」と問いかけた。


 思い出すかのように「あ、そういえば……」と話し始める。

 名前の話を聞きながら、半ばうんざりしてしまう。

 また、奴か……。

 どうやら最近よく名前を気にかけて接近している男の忍びだった。名前は「いい人なんだよね〜」と好意的に見ているが奴の親切心には恋心が含まれている。

 これは……牽制のつもりなのか。

 離れていても名前の傍には奴がいて。香りを残すことで、名前の特別な存在は自分なんだと暗に示そうとしている。

 名前だってそんな奴に接近を許している事実だって気に入らない。
 何より別の男に()かれているかもしれない、そんな焦りが冷静さを奪っていく。


「それより、あの人がどうかしましたか?」

「どうしたらオレの香りは名前うつるんだ」

「急にどうし」


 形振(なりふ)り構わず名前の声を遮って、掻き抱くと柔らかくて折れてしまいそうな名前の感触。


「が、我愛羅っ……!?」


 突然のことに驚愕の色をみせていつも一緒にいるときの素が出てしまう名前。
 自分が翻弄している事にどこか満足感を覚える。このまま支配できてしまえばどれだけいいだろう。


 書類を守るように持って動けない名前をいいことに髪に頬を寄せて塗り替えるように衣類を擦りつけながら撫でていく。

 そのまま名前の背中に回した腕に力をこめると躊躇いがちに「つ、疲れているの?」と上目づかい気味に訊ねてくる。


「……そうかもしれないな」

「なにそれ」


 羞恥が入り混じっても大人しくしている名前の香りを吸った。これで消えただろうか。


「これでいい」


 そっと離れようとした瞬間、ふと目に写ったのは細い首筋にそそられる。


「まだ、足りないな」


 首筋に唇を近づけて顔を埋めると軽く舌先で湿らせる。
 名前は息を呑んで慌てて後方に逃げようとするそのまま引き寄せて首筋に追い縋った。

 きつく吸うと「えっ……ンっ……いっ」と漏れでた愛らしい声に劣情が疼いてしまう。

 ちゃんと痕はついただろうか、確認のため指先で掻いてみた。少し薄いが十分だろう。名前にオレが触れた証拠だ。


「なっななな、何考えてんのっ……!」


 放心して固まっていた名前が現実に戻って状況を把握したのか腕の中で暴れ始める。
 騒ぐ声に遮られないように「確認したいことがあるならこれからはいつでも来い」と耳元で囁くと腕の中から器用に逃げだして身を翻して「確認ありがとうございました……!」と言葉を残して一目散に走り去ってしまった。


 予想外の礼に瞬いた。名前から来ないのであれば会いに行こう。個人的に名前に遺した想いを確認したいからな。


2021.10.23



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