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「我愛羅、ちょっとゲームしてみない?」
枝を模したチョコ菓子を我愛羅に見せながら話しかける。
「この一本のお菓子をそれぞれ両端から二人で食べていくの。最後までちゃんと食べきった人が勝ち。途中で口離したり折ったりしたらだめ、簡単でしょう?」
「断る」
「じゃあ負けた人は勝者の何でも言うことを聞く、でどう?」
「忙しい」
「寂しいこと言わないでお願い、一回だけ!」
服の裾を引っ張りながら懇願すると困ったように微笑して「……わかった」と受け入れてくれた。嬉しい。
「ありがとう。さっき説明した通りね、じゃあ先に我愛羅どうぞ。私も口つけ始めたらスタートね」
「こんな単純な
「はいはい」と言いながら我愛羅の口元にお菓子を咥えさせてあげる。あ、ちょっと可愛い。雛鳥に餌づけしているみたい。
「これ一回きりなんだからやろ、はいじゃあスタート」
適当に合図を決めてさっそくお菓子に口つけてみる。意外と、近くてびっくりする。鼻腔を掠めるチョコと我愛羅の香りにくらくらする。
恥ずかしさで離れたくなる衝動を抑えてカリ、と控えめに食べていく。室内に乾いた咀嚼音と心臓だけがドキドキと響いてる。
なんか目のやり場に困って目を瞑って耐えようとした。だけどすぐにこのまま目を閉じていると、あとどれくらいで我愛羅の唇に触れてしまうのかが分からない緊張感に余計に追い詰められてしまう。
ふわりと我愛羅の息がかかって距離が近づいているのを実感する。だけど離す気配が一向になくて困惑した。
このままだとキス、しちゃうかもしれないのに……どうしよう……我愛羅はいいの?
目が合ったら怖かったけどどうしても気になって目を薄く開いて我愛羅を盗み見た。顔色一つ変えずに集中している。
折らないように慎重に懸命になってる姿と静かな
え、嘘。我愛羅……もしかして、大真面目にこのゲームしてる……!?
初めて見たかもしれない、大概の人は趣旨を理解して照れて笑ったり、キスをするつもりで挑んでくるのに我愛羅からは邪推なものを感じ取れない、ただ真面目にゲームをしてる……。
そんなに私に聞いてほしい願いがあるのかな。なんか一日大人しくしてろとかだったらいやだな。
不安に駆られてもそのまま食べすすめていくのはやめなかった。ここまで来たんだから最後はどうなるのかどんな反応が返ってくるのか見たくなった。
どっちに転んでも美味しいからそのまま意を決して続けた。
上唇が軽くくっついたところで我愛羅は今の状況に気づいたのかハッとして身体を突き離される。
「なにを、するんだ……!」
「いや。が、我愛羅こそ、びっくりした」
珍しく焦っている我愛羅に呆気に取られてしまう。まさか勝敗が決まらなければキスをすることになるって思いもよらなかったのかな……?
「すまない……」
「これは私の勝ちでいいよね?」
「ああ」
「あと、これってそういう趣旨のゲームだから、大丈夫だよ」
「それは、どういうことだ……?」
固まって瞠目した我愛羅に詰問口調で訊ねられる。どこか責めるような声に萎縮してしまう。
「
怒らせてしまったのか、だんだんと気まずくなって雰囲気に耐えきれなくなって頭を下げてきちんと謝った。
「いや、もう一度だ」
「……え? 負けたのがそんなに悔しい?」
「違う」
「残念だけど今ので最後の一本だったからおしまいだよ」
「……買ってくる」
「忙しいんでしょう?」
「すぐに戻る。まっていろ」
「それより約束のお願い事きいてよ、我愛羅、我愛羅ー?」
私の呼び止めも虚しく出ていってしまった。ひとり取り残されて我愛羅が戻ってくるまでさっきのやりとりを
「何だったんだろう?」
悔しかったわけじゃない。なのにどうしてまたお菓子を買ってくるんだろう。
ただキスがしたかった……? それはないな、と思い直した。
あそこまで接近しないと意識してくれなかったし突き離されたし……そんな都合よく勘違いしちゃだめだ。
それとも買い物は出ていく口実で私の頼みごとを聞くのを
「きっとお菓子が気に入っただけだよね?」
今度また買ってきてあげよう。その前に我愛羅が戻ってきたら素直に我愛羅のことが好きだから一瞬でもいいから擬似的なキス体験がしたかったって伝えよう。
2022.11.11.