隠密護衛
気分転換も兼ねて外に出ると遠く方に名前の姿が見えて思わず身を隠した。
名前に声をかけたい、かけられてみたい。想い悩む気持ちとは裏腹な行動に内省しつつも
どうやら任務の報告が終わって帰路につく名前の様子はどこか浮足立って忙しない。
こんなところで何をしている?
疑問に思って砂隠れの街道を歩いている名前の後ろ姿に引き寄せられるように後をついていった。
知らない名前を見てみたい、把握しておきたい欲求に従って、一定の間隔を保ちながら足音と気配を消しながら普段見ることができない名前の姿を新鮮な気持ちで眺めた。
日常に溶け込んで穏やかな時間を名前が生きて、ここにいる実感を味わいながら背中を追っていると、冷静になってやめたほうがいいと思いなおした。
だが、どこか注意力が散漫としている名前をみていると危なかっしくて見守るためだと理由を見つけると、追いかけることに抵抗がなくなって、いてもたってもいられなくなる。
転んでしまったら、砂で支える事ならできる──淡い期待を抱えながらも名前が傷つくようなことがないようにと想いながら見つめ続けた。
名前は手軽に休憩ができる甘味処を探しているみたいで店前の品書きを吟味しては場を離れて、また甘味処を見つけては店内に入るかを迷っている。
数十分、彷徨ってから店を決めたのか嬉しそうに入店するのをみて、向かいの片隅の物陰に息を潜めた。
席について注文してから品物が届くまでそわそわと楽しみにしている心せく表情も満足そうに甘味を頬張る姿を、人ごみに紛れながら笑顔の一服が終わるまで待った。
任務中に見せる緊迫とした張り詰めた気配が剥がれて一人の少女として目の前にいる名前が垣間見えて、それがどうしてだか無性に嬉しい。
甘味処の場所と名前が注文した品を覚えて今度、テマリかカンクロウを連れて寄ってみようと予定を組み立てながら店からでた名前を再び尾行する。
うっかり自宅まで見送ることになって不本意な形で名前の住居を覚えてしまったが道中、何もなくて良かったと安堵すると同時に思わぬ一面をたくさん見つけることができてしまって自然とほくそ笑む。
それからは時間を見つけては名前の安全を見守りながら新しい彼女の魅力を探すのに夢中になっていた。
そうして任務後に寄り道をよくすること。任務の配属先をよく間違える割には団子屋の場所は間違えないところ。夕食にはいきつけの居酒屋や老舗に出かけること。日用品を買い足すときは非番な日を利用してまとめて揃えるところ。
余所見をしながら歩いているせいか稀に人や壁にぶつかるところ──見ていないと気づけなかった些細な仕草を発見した。
ふと、日々を重ねて気づいてしまう。
これなら話さなくても名前のことを知ることができると確信して喜びに溢れた。
名前を知るために、そして名前にとって大切な存在になるために必要な情報を得るためには──どうしたらよいものかと悩んでいたのが嘘のように思えるほど一番いい答えを見つけてしまった。
これからもオレだけに名前の全てを魅せてくれ。
2023.11.30.