岸谷さんとセルティさんとテーブルを挟んで、わたしはたった数秒前の自分の発言を猛烈に後悔していた。


『すまない。私のせいだな』


セルティさん自身、どう返せばいいのかわからなかったんだろう。PDAを操作しながら、時々何か考えるように動きが止まった。そして提示された画面には、見たくなかった謝罪の文。


「あ、違うよ、違うんだよ。私の方こそ変なこと言ってごめんなさい」


怖くて岸谷さんを見れない。岸谷さんはセルティさんを傷つけるひとに対しては恐ろしくシビアだ。


『でも温泉に行きたいんだろう?』

「えっと、セルティと一緒に温泉に行けたら楽しいだろうなあって意味!」


今更取り繕ってもただの言い訳。顔どころか頭がないセルティさんだけど、一緒にいれば怒ってるのか悲しいのか楽しいのかくらいはわかる。たぶん、今セルティさんは悲しんでるんだ。


『そうか…』


それきり伏せられたPDA。わたしはなんてことを言ってしまったんだろう。最初はただ本当に、みんなで温泉に行きたかっただけなのに。

普段からプライベートでは外出しないセルティさん。ヘルメットをとるわけにはいかないから、それは当たり前みたくなってる。だから岸谷さんはセルティさんのために、冗談めかして水着と水浴びを勧める。バルコニーにチェアとプールを設置して。


「…セルティさん、ごめんなさい」


岸谷さんの方は見ないで顔を上げる。セルティさんは伏せたPDAを取り上げて、何か文字を打つ。

みんなで温泉にいきたくて、セルティさんにゆっくりしてもらいたくて、「みんなで温泉にいきましょう!」と声を上げたわたし。賛同してくれると思ってたのにむしろみんな否定的。思わず口をついてでた言葉は「行くのになにも問題ないじゃんか!」というもの。セルティさんと仲良くなったのに、わたしはちっともセルティさんのことをわかってなかったんだ。


『正直言って私は温泉に誘われて嬉しかった』

「…ほんとう?」

『ただそれは温泉に魅力を感じたからじゃない NAMEが私に頭がないことを忘れるくらい慣れていたことを知ったからだ』


セルティさんの、PDAを持っていない方の手のひらがこっちに向かって伸びてくる。なんとなく肩が強張って、でもセルティさんはテーブルを挟んで身を乗り出しながら、その手のひらをわたしの頭に乗せてぽんぽん、と優しく叩くように撫でてくれた。


「わたし、セルティさんのこと傷つけるつもりはなかったんだよ」

『わかってる 傷ついてなんかいないんだ 嬉しいって言っただろう?』


セルティさんの横では岸谷さんが、穏やかな表情でうんうんと頷いている。


『NAME ありがとう いつか一緒に温泉へ行こう』

「…うん」

『温泉だけじゃない 海に遊園地…NAMEが行きたいところだ』

「…うん」


頭の上の手のひらがわたしをあやすようにリズムをとる。やさしい、おおきな、やわらかい手のひら。


「今日のところは、二人でお風呂に入ってきたらどうかな?本当は僕がセルティと入りたいところだけど、譲ってあげ、っ!」


ドスッと音がすると同時にテーブルに突っ伏した岸谷さん。
頭から手をどかしたセルティさんが立ち上がり、手を差し出してくれる。


『風呂で我慢してくれ』

「…うん!」


手を取って立ち上がるわたしの視界、岸谷さんが恐らくセルティさんに踏まれたのだろう足をさすりながら、笑って手を振ってくれた。



レディのゆううつ


*
アルさま
セルティかわいいよはあはあ。
内容がおまかせだったので、思い切り百合百合したお話にするかほのぼのしたお話にするか悩みました。楽しんでいただけたら嬉しいです。
リクエストありがとうございました。



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