そろそろやめてほしいんです。


「して、NAME殿」

「ああ、はい」

「よ、よろしいでござりゅか」

「何故噛む」


畳、夜、障子、現代っ子に珍しい純和風建築の、その一室。
一組の布団の上に正座する一組の恋人。ちなみに初めてではありません。


「では、その、脱がしゅっ」

「何故噛む」


幸村は浴衣、私はパジャマ。何回目かのお泊まり。回数はもう片手じゃ足りない。キスだってエッチだって経験済みなのに、何故私は毎回こんな異様に恥ずかしいことをしているのか。


「相済まぬ…きき緊張しているのだ」

「それはわかってる。なんで私は毎回布団の上に正座してこれからエッチしましょう、はいどうぜってなやり取りをしなくちゃいけないの」

「ははは破廉恥な…!某はおぬしにエ、エッチしようなどと言った記憶はないぞ!」

「うんそうだね。もっと恥ずかしいこと言ってるもんね。某と交わって下さらぬかとか言ってるもんね」


毎回毎回心臓に悪い。真っ赤になった幸村が握りしめた手のひらに汗を滲ませて私を押し倒すのは、こっちとしてももう勘弁して欲しいんだ。


「し、しかし、やはりこれから同衾しようとするおなごに対し断りを入れねば」

「…同衾て」


時代錯誤なこの男。古い言い回しが自然と身についている。別にそれはいいのだ。
じゃあ何が問題かって、私の心情を汲まないところだろうか。
面と向かってよろしくお願いしますなんて、それってどうなのって言う。何をよろしくお願いするのかって言う。まあ何をってナニをですよね。…ああもう!


「私、たまには幸村にもっとスマートにやってほしい!」

「す、スマートと言われてもこっ困るでごじゃっ」

「何故噛む」


真っ赤な顔と震えた肩と、いつも最中はしゃべらない幸村。しゃべると必ず噛むからそれはいいんだけど、でも、…ちくしょう!


「幸村は、こんな儀式みたいなことしないと不安なの?いきなり押し倒して私が嫌がると思ってるの?」

「いや、おぬしが某を拒絶すること等考えたこともない」


それはそれで腹立つよ!


「だいたい、こんな風に挨拶みたいのしなければ幸村だってこんな緊張しなくて済むんじゃないの?」

「いや、……NAME殿をこの腕に抱くのに、緊張しない時等ない」

「………あの、いやえっと、そういうことじゃなくてさ」


思わず照れてしまった。破廉恥だなんだと騒いではいるけど、この男は結構恥ずかしいことを真面目な顔して、臆面もなく口にする。それがどれだけ私の心臓に悪いか、きっと考えたこともないんだろう。


「某はおぬしを抱きたいから、こうして面と向かって言うのでござる」

「幸村はもう少しムードを作った方がいいと思う」

「すぐに押し倒してしまっては、恐らく自制できまい」

「……ん?」


もごもごとパジャマの裾を握りしめて俯いていたはずの私の視界いっぱい、広がる光景が幸村の顔と天井になって初めて、幸村がいつもと違う表情を浮かべていることに気付いた。

困ったような、切羽詰まったような、少し怒ったような…なんだ、こんな顔もできる、ん、だ?


「自制しなくてもいいのなら」


幸村らしくない、にやりとシニカルな笑みを浮かべたその男はあっけなく簡単に、普段もたもたと外す私のパジャマのボタンを片手で外す。


「ゆきむら、」

「覚悟はよろしいか」


浴衣の帯を一息に引き解くその腕に視界がふらついたのは、きっと気のせいではない。



follow up


前言撤回。やっぱり心臓に悪いのでやめてください。というか。


「幸村ならもう、どっちでもいいや…」

「まこと、可愛らしいおなごでござる」


ばか、そんな顔で笑ったことなんかないくせに。卑怯者め。


*
カノさま
書くのが遅くなり申し訳ありませんでした…
ほのぼのエロってなんだろうと考えていたら私の頭がスパーキンしました。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
リクエストありがとうございました。



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