まあ待てよ落ち着けベイベー。私は何も見なかった。うんそうそれでいいのよオッケー。一応深呼吸でもして落ち着きましょう。新鮮な空気を体内に循環させて冷静になりましょう。深呼吸。ヒッヒッフー。よし、やっぱり何も見なかったことにはしちゃダメね!


「何を全裸で踊ってるんですか副長さん」

「踊ってねえよバカいいかお前これは夢だ限りなく夢に近い現実だ俺は幽霊なんて見ていない」

「早口でわかりません副長さん。つまり夢なの現実なのどっちなの」


素っ裸でひきつった笑いを浮かべる副長。鳥肌に青ざめた顔。何があったのか定かではないけど、とりあえず現在我らが真選組屯所内に変態がいるのはわかる。


「夢だ…夢に違いねえ……」

「私は今この状態を夢だと思いたい」


深夜2時。泣く子も黙る真選組も、一部を除いて眠る時間。
男所帯なもんで風呂は一つ。
こんな時間なら誰も入らないだろうと浴場の扉を開けたのが運のツキ。
なんてこった。


「俺が風呂から上がったら、脱衣所のガラス戸の向こうでな、女がこっちを伺ってたんだ」

「うん。それ私ですね」


浴場の扉を開いて目の前の曇りガラスの戸の向こうに人影があれば、それは中を伺うだろう。

凄まじい勢いで飛び掛かってくる副長。私は現在のあなたが一番怖い。


「いや、俺は信じねえ…あれは幽霊だ。幽霊なんか存在しねえ」

「だからどっちなんですか。っつーか服着てくださいよ」


執務に追われて疲れきった体が悲鳴をあげる。
早くシャワー浴びて寝たい。


「ダメだ。………NAME、」

「はい」

「一緒に入ろうか」


…………はあ?
とうとうこの人は脳みそイカれたんだろうか。
人に厳しく自らに厳しく、そんな威厳のある副長を尊敬していた私にとってこれは不測の事態。
あ、だから私が副長を褒めるとみんな変な顔したのか。


「副長さん落ち着いて、さあ一緒にヒッヒッフー」

「それ違うよな。俺は何を産めば良いんだ」


ほっ。普段の副長だ。
ツッコミにいつものキレはないけどようやくひと安心。脱衣所で素っ裸のまま慌てふためく副長なんて、沖田隊長に見られなくてよかったね!


「副長さん、」

「なんだ」

「前、隠してください」


目の前には副長がさめざめと小さくなった背中で寝巻きを着るという一種間抜けな光景。

素っ裸で踊ってたことも幽霊が怖いことも、私とお風呂に入ろうとしたことも全部忘れてあげるから。

だから明日からはいつも通りのかっこいいあなたでいてね。


疲れきった身体に追い討ちをかける防水タイプの小さな時計。
深夜3時目前を告げる心ないそれに私は、心の中で呟いた。




冷却ダイブ







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