台所に立って冷蔵庫の中と相談。
いつも思うけれどこの家の冷蔵庫にはめぼしい食材がない。
とりあえずお米を研いで炊飯器をセット。
エプロンをしてやる気になっていたけれど、材料がないなら仕方ない。

買い物に行こう、とエプロンをほどいて冷蔵庫の扉を閉めた。

ちらりと見やった壁時計はまもなく8時を指す。こんな時間に起こしたらきっと文句を言われるだろう。


「買い物に行くし、先に起こさなきゃ」


ひやりと冷たい廊下を歩く。
足袋を履くのが億劫で裸足のままだった自分にため息一つ。

襖を滑らせれば、寒そうに布団にくるまる銀さんと、押し入れからは大きな寝言。

いつも通り、普段と同じ朝が始まるこの小さな幸福が私の心を温める。


ギシリと部屋に足を踏み入れる。静かな寝息と微笑ましい寝言のユニゾン。

丁度、見計らったように響いたのはこの部屋の壁時計。

もうそんな時間かと覗いたら、鳩が鳴きながら8時を告げていた。


「…ごはんのじかんアルか」

「あら、起きたの」

「はとが」


この鳩時計を買ったのはつい最近。
一時間毎に小さな扉を開いて現れる鳩が、その小さなくちばしを開きながら鳴く光景を興味津々に楽しそうに眺めていた神楽ちゃん。

元は居間兼事務所の壁に掛けておいたけれど、神楽ちゃんが余りにもそわそわと時計を見上げるものだからこの部屋に移動したのだ。


「そうね、鳩も呼んでるよ。着替えなさい。私買い物に行くから」

「いっしょにいく」


虚ろな目を擦りながら押し入れから這い出る神楽ちゃんは尚も鳴く鳩時計を視界に捉え、小さな鳩に「おはようアル」と声をかけた。

玄関からは新八くんの声が聞こえる。もうそんな時間になってしまったらしい。
早く買い物に行かなければ。


「神楽ちゃん、買い物に行くなら早く着替えて」

「はーい」


一度大きく屈伸した神楽ちゃんは、布団に包まれて幸せそうな寝顔の銀さんの上に思いきり、頭からダイブした。

銀さんの叫び声と嘔吐で始まった朝。
…今日はこの部屋の掃除をしなければならない。




幸福カルテ





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