頭上でリズミカルな秒針が跳ねる。
所々塗装が剥げて、赤黒い錆の色を見せる白い時計台。
小さな公園には珍しいその時計台は、昔は広かったのだという公園の名残だと最近になって知った。
宅地開発の余波を受けて最小限規模に縮小された公園には、小さな砂場とブランコ、シーソーがあるだけ。あとは古ぼけたベンチが並んで、はしゃぐ子供の少なさを寂しげに見守るだけ。
私はいつも、待ち合わせにこの公園を指定する。
広かった頃の公園を知らないけれど、誰かがこの場所に私を迎えに来てくれる、その嬉しさはきっと変わらず。
この公園で遊んでいた子供の頃を思い出して、幼い私の家出先だったこの時計台の足元を見下ろして、思わず一人で笑ってしまった。
「悪い、待ったか?」
「さすが隼人。丁度5分前」
見た目によらず律儀な彼が、普段通りの少し攻撃的なデザインの私服で時計台へと駆け寄ってくる。
ポケットの中に伸びるチェーンが高く小気味良い音を立てて、私は時計台にもたれ掛かった。
私はこの瞬間が好きだ。
他の誰でもなく私のために、私を迎えに来てくれるその姿に胸をつく僅かな郷愁。
マフィアの世界に足を踏み入れるとき親との縁を切った私には、こうして迎えに来てくれる人は最早目の前の彼かマフィアだけ。
マフィアのお迎えは仕事ばかりだから、純粋に私を迎えに来るのは彼だけ。
「外で待たせんのは好きじゃねえんだよ」
「寒いから?」
「…変な奴がいねえとも限らねえから」
隼人の、泳いだ視線に巻いたマフラーに埋められた口許。少しずつ紅く染まっていく頬。
ぶっきらぼうに差し出された手に私もかじかんだ手を重ねた。
汚れた手を重ねて、傷を舐め合うような倒錯感。間違っているのか正しいのか。
「…冷たいね」
「…寒ィからな」
「じゃあ、行こっか」
「おう。ああ、あと」
「何?」
手を繋いで、足を踏み出す。
二人の間を風が吹き抜けて、それが少し寂しくてくっついてみる。
幼かったあの頃の私も黒く染まった今の私も、変わらずにまだこの場所を恋しく思う。
「今日もありがとう、とか」
「何の話?」
「いや、時計台に」
後ろを振り返ればそこには、いつもと変わらない古ぼけた時計台が私を優しく見守ってくれていた。
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