ジッと時計を見つめていても、その針が私の望む時間に戻ってくれることはない。
どこにでもあるファミリーレストランの喫煙席で、思わずくわえていた煙草のフィルターを前歯で噛んだ。
「ドタチンがイライラしてたよ」
「…うん、ごめん」
「謝るのは私じゃないねえ」
目の前で眉をハの字に微かな笑みを浮かべる狩沢さん。
私たちのケンカを聞き付けて、というか京平の余りの余裕のなさに詰め寄り、全てを聞いてこうして私を呼び出した、らしい。
「ごもっともです」
「てゆーか、本当に何があったの?」
「聞いたんじゃないの?」
「ドタチンからはねえ」
狩沢さんは本当はいい人だ。
双方の言い分を聞いて、あくまでも中立な立場で私たちに接しようとしてくれている。
「…私が、京平にもらったプレゼントを返したの」
「それは知ってる。理由が聞きたいの」
「プレゼントが何かはわからないけど、そのプレゼントのせいで最近会えなかったの」
「…ん?」
「仕事の時間増やして、休みかと思ったら行くところがあるって。私も一緒に行くって言ったのに来るなって。プレゼントくれた時、嬉しかったけど」
「ドタチンってば馬鹿正直に"これ買うために最近会えなかった"とか言ったんでしょ!」
小さく頷いてから新しい煙草を取り出して、口に挟んで火をつける。
京平が煙草吸わないから私も我慢してたけど、プレゼントを返してしまってからまた煙草に手が伸びた。
「NAMEちゃんはそうまでしてプレゼントが欲しい訳じゃないってこと?」
「だって、別に誕生日でもないし、何かの記念日ってわけでもないし」
「…ちゃんと言えば良かったのにねー」
火をつけたばかりの煙草を灰皿に押し付ける。
嬉しいけど、嫌だったんだよ。
こんな複雑な気持ちなんて伝わるのかわからなくて、ちょっと気が昂った私が選んだのはプレゼントを突っ返すことだった。
煙草のヤニで汚れた時計を見上げれば時間は無情にも進んでいる。
あの時に戻ってプレゼントを受けとりたい。
そしたらまた会えなくなるなんてこと、なかったのに。
「…私のばか」
「でも、自分の彼女不安にさせてまでってゆーか」
「うん」
「まあでも、ドタチンにはそれだけ意味のあるものだったみたいだよ」
「……うん」
そうなのだ。突っ返してから改めて考えたら、あの包装はオリジナルパフュームのお店のもの。
「時計なんか睨んだって時間は巻き戻らないしねえ」
「…いって、くる」
「その必要はないけどねー」
え、と狩沢さんの視線を追う。その視線の先には、京平が立っていた。
「……盗み聞きしてスマン。NAMEに、俺が考えた香水をつけてて貰いたかったって、そんだけなんだ。なんだ、その…淋しい思いさせて悪かった」
改めて渡されたプレゼント。
都合の良すぎる展開にフリーズ。
視界の隅では、狩沢さんがニヤニヤと笑みを浮かべている。
全く、憎い演出をしてくれる人だ。
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