白で統一された部屋。
壁もリネンも。備え付けのキャビネットは木目だけれど、得てして病室というものはどこも大差なく同じような光景が広がっている。

ガツガツと乱暴に響く外の足音に、無意識に瞼を伏せた。


「……チッ」


扉を引くなり開口一番に放たれた舌打ちに相変わらずの不遜さを感じて僅かな安堵。
そしてまた、舌打ちするなら来なければいいのに、と思う。


「ヴァリアーのボスが病院にいるなんて、似合わないねえ」

「そう思うならさっさと出ろカス」


足早にベッドへと足を進めるザンザスが、背の低いキャビネットの上に鎮座するガラス製の砂時計を取り上げ、既に砂の落ちきっていたそれを上下入れ替えた。


「たった5分のためにこんなとこに来るって、ヴァリアーは暇なの?」

「下らねえ茶番はカス共に任せておけばいい」


その茶番で入院した私への嫌みだろうか。
ザンザスの手によって機能し始めた砂時計は、キラキラと細かな砂が下に積もり、崩れ、また積もり、と繰り返していく。


「5分って長いのかな、短いのかな」

「短え」


一刀両断に吐き捨てられた低い台詞に肩が震えたのは反射的なものだ。私に限らずヴァリアーの面々も同じこと。


「そう?寒空の下でターゲットの帰宅を待ってる時、すごく長く感じるけど」

「…チッ」


肩は震えども舌打ちには慣れた。両足を固定するギプスがなければ自力で歩くことが叶わずともあの黒く暗いアジトに帰れるのに。


「…テメェがこんなとこに居んのは内臓が潰されたからだ」

「…やだ、以心伝心?」


私はそんなに腑に落ちない表情をしていたのだろうか。だとすれば暗殺部隊にあるまじき単純さ。
それでもザンザスは怒るわけでなく不機嫌そうな風でもなく、ただ呆れただけのように息を吐いた。


「出てきたら覚悟しておけカス」

「忙殺されるのね…」

「当分アジトから出られると思うな」

「…うん?」


砂がさらりと最後の一摘まみを落として、今日もまたタイムリミット。

何事もなかったかのように黒いコートの裾を翻して病室を後にしたザンザスの背中に、毎回思うのだ。


「…だから、思わせ振りなこと言って出ていかないでよ」


いつだって不遜で我が物顔、手が早いと評判のザンザスはそれでも私には触れようとしない。
その癖こんな所まで毎日毎日飽きもせずに来るんだから、…わからない男だ。


入院初日にザンザスが持ってきた砂時計に手を伸ばす。
繊細なガラスは薄く細く頼りない。


「5分、ねえ」


とりあえず私は早くここから出なければ。意外と心配性のボスの為にも、ね。



廻廊ロンド





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