窓を叩くように強く降る雨。遠くに見える雷の光と音に、漠然と遠くだな、と思う。背後のベッドから聞こえる穏やかな寝息。あたしはカーテンをひくこもせず、ソファに横になった。


沢田さんが部屋に来たのは2時間程前の事。いつも何だかんだと理由をつけて部屋に上がり込む彼の、今日の理由は「天気が急に崩れた」というもの。疑わしく思ったけれど、彼の肩には雨粒が光る。仕方なくあたしは彼を招き入れて、シャワーを貸して夕食を作ったのだ。作ったとは言っても温め直しただけ。それでも彼は本当においしそうにそれを口に運びながら、「奈々といい勝負だな」と笑った。奈々さんとは、彼の奥さん。沢田さんは既婚者である。


彼はいつの間にやら置いていったのか、バスルームから出てきた時にはTシャツとジャージというラフな姿になっていた。…ちなみに来たときはスーツだった。どうやらこの部屋にはあたしが知らない間に彼の荷物が少し運び込まれているらしい。


その彼が、あたしのベッドに潜り込んで寝息をたて始めたのは30分前のこと。起こそうかと立ち上がったものの、彼の寝顔を見たらそんなことはできず、仕方なく雨が止むまではと見て見ぬ振りをすることにした。


それでも彼は一向に起きる気配がないし、雨も止む気配がない。寝床を奪われたあたしはソファで寝ようと押し入れから掛布団を引っ張り出した。


雨まで味方につけることないじゃない。ソファで横になったまま、ベッドで穏やかな寝息とイビキを繰り広げる寝顔を睨んでみる。

それでも、何故か私はいつも彼の手を取ってしまう。大きくて温かい手のひらが私に触れる度に、心が軋み溶解していく。体を走る甘美な痛みと罪悪感。まるで麻薬のようだ。


「…沢田さんの帰る場所は、ここじゃないでしょ…」

「…聞き捨てなんねえなあ」


彼を見ていられなくて、暗い窓の外、勢いを増す降雨を見つめながら吐き捨てるように呟いた私に、思いがけない返事が寄越される。


「起きたの」

「お前が、あんまりにも淋しいこと言うからな」

「傘なら貸すのに」

「冷てえこと言うなよ」


布団を片手で持ち上げながら、沢田さんは困ったように笑ってみせた。何も変わらないのに、彼は私に酷く優しい。わかってる。この人は私だけのものにはならない。


「早く来いよ。抱き締めさせてくれ」


横になっていたソファの上で足が震える。泣きたいほど、彼の腕の中で呼吸を止めたいと願うほど、現実は残酷だ。


「…NAME、泣いても、雨の音で聞こえねえから」


深夜3時。
私は今日も彼を拒むことができないまま、すがる為でなく淋しいと甘えるために彼の手を求める。


「どうしたらいいの…答えが見つからない」

「いいんだよ、全部俺のせいにしていい。怖がらなくていいから一度でいい、名前を呼んでくれよ」


家光さん、声にならず震えた唇。
恐らくそれが全ての答えだったんだろう。



解放メロウ



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