洞窟に現れた時から私の体は15,6歳くらいの年齢だった。
身につけているものは白色の装飾1つないシンプルなワンピースただ1つ。

それにしてもお目の前に現れたゴブリンの装備は貧相なものだった。
手入れの行き届いていない武器と鎧を身につけているのも少数。
他はボロ布をまとっていて体も栄養が取れていないのかかなり貧弱そう。
数は多いけれどリムルさんならどうってことないゴブリンが武器をこちらに構えていた。
リムルさんが私の数歩前に出て相手の出方を伺っている。


「グガっ強き者よ…この先に何か用事がおありですか?」


あ、言葉がわかる…。私と同じことをリムルさんも思ったらしい。
大賢者さんによると石が込められている音波は魔力感知の応用で理解できる言葉へと変換されるとかなんとか…。
それって私にも適用されているのかな…。
思念を乗せて発生すれば会話も可能であると…。ふむ。いままでリムルさんと違和感なく会話できていたのは同郷の言葉を使っていたからで、ゴブリン達の言葉を理解できるのは魔力感知…。魔力感知なんて私にあるのだろうか…?異世界転生補正かな


「初めまして、俺はスライムのリムルという、後ろにいるのはネージュ」


発生練習ではそんな大声出さなかったのに…!
びりびりとする大きすぎるリムルさんの声に思わず両手で両耳を塞ぐ。
目の前にいたゴブリン達はその声量に足を震わせて地面にうずくまる。

「強き者よ!あなた様のお力は十分にわかりました、どうか声を鎮めてください!」
「すまんな、まだ調整がうまくできなくて」

今度は小声だった。
あれ、もしかして私も声の調節めちゃくちゃ下手なのでは…口を覆いながら「あ、あー」と声を出してみる。


「で俺になんか用?俺たちはこの先に用事なんかないよ?」
「左様でしたか、この先に我々の村があるのです。強力な魔物の気配がしたので軽快に来た次第です」


強い魔物の気配…リムルさんが困ったようにこちらを振り返ったので、もしかしてリムルさんのことなのでは?と首を傾げて見つめ返す。
だって洞窟内でめちゃくちゃ強そうな魔物ばっさばさと切り倒していたもの。


「我々は騙されませんぞ、ただのスライムにそこまでの妖気は出せませぬ」


リムルさんが大賢者さんに魔力感知の視点切り替えを頼んだらしい。
実際ダダ漏れだったみたいだ。私にはちょっと分からないけれど…。社会の窓を全開にしたまま闊歩してたような気分らしい。ちょっと笑っちゃった。


「ふふふ、わかるか?」
「もちろんです!漂う風格までは隠せませぬ!」



どうやら妖気を引っ込めるらしく、今まで妖気ダダ漏れしてたのは森で無駄に魔物に絡まれないようにするため…という程で行くらしい。
そのままゴブリン達との会話を楽しんでいる様子のリムルさん。
話の流れで村にお邪魔することになってしまった。泊めてくれるらしい。


「あそこです」


よくお話ししてくれていたゴブリンが指差した村には藁でできた家が並んでいた。
その中の一軒にリムルさんとともに案内された。共に少しかけた茶器とともにお水もいただく。
中には藁の敷物があり申し訳ないと思いつつもボロボロだな…と思いながらそこへと腰掛けるとリムルさんを膝に抱き上げてむぎゅむぎゅと手遊びをしてじゃれてみる。

しばらくすると先ほど先頭に立って会話をしてくれていたゴブリンが村長を連れてきた。
よぼよぼのおじいちゃんのようで杖を両手に持っていた。先ほどのゴブリンは村長の息子だという。


「大したもてなしもできませんで申し訳ない。私はこの村の村長をさせていただいております」
「ああいやいやお気遣いなく」
『…いえ、』
「それで?何か用があるから自分たちを招待してくれたんですよね?」


リムルさんが早速切り出せば村長達はその場に手をついて頭を下げる。

「貴方様の秘めたるお力息子から聞き及んでおります
我らの願い、何とぞ聞き届けてはもらえませんでしょうか」

お願い…。
リムルさんが膝の上からこちらを見上げた気がした。

「内容によるな、言ってみろ」

家の藁を分けてこちらを伺うゴブリン達を見つけてしまった。
気づいて内容を装って頭を下げたままの村長を見つめる。


「ひと月ほど前この地を護る竜の神が突如消えてしまわれました
そのため縄張りを求める近隣の魔物達がこの地に目をつけたのです
中でも牙狼族なる魔物は強力で一匹に対し我ら10匹で挑んでも苦戦する有様でして…」



しかも群で100匹くらいいるらしく、ゴブリンの中で戦えるものは60匹程度しかいないという。
ていうか数え方匹でいいのか…。
絶望的な戦力差である。


「牙狼族が100匹ほどっていうのは確かなのか?」
「それは確実です。…リグルが牙狼族との死闘を経て手に入れた情報ですから」
「リグル?」
「リグルは私の兄です。さる魔神より名を授かった村一番の戦士でした。兄がいたから我らはまだ生きているのです」

『…もう、いないの…?』


まるでもうなくなったかの言い草に思わず口を挟んでしまった。はっとして口を手で押さえる。


「…自慢の息子でした。弱きものが散るのが宿命だとしても。
息子の誇りにかけて我らは生き残らねばなりません」


リムルさんの意思はもう固まっている気がする。
伺うようにこちらを見上げたそのスライムボディに手を添えて頷く。


「村長1つ確認したい。
俺がこの村を助けるならその見返りは何だ?お前達は俺に何を差し出せる?」



いつの間にかこの家の周りはこの村のゴブリンに囲まれているらしい。いたるところから顔が見えている。
もう隠れて盗み聞きとかじゃなくなっている。


「強き者よ、我々の忠誠を捧げます!」


助けを求める、だけれど強い目をしていた。

突如村に響き渡る牙狼族の遠吠え。


恐怖に駆られたゴブリン達の騒めき。
子供達の鳴き声。
村長がそれらをなだめるように声をかけるもそれらは止まらない。


「怯える必要はない
これから倒す相手だ。
暴風竜ヴェルドラに代わり、このリムル=テンペストが聞き届けよう!」


その声に家に集まって来ていたゴブリン達が一斉にその場に膝をつき頭を垂れる。



「我らに守護をお与えください。さすれば今日より我らはあなた様の忠実なるシモベでございます!」





 


「その…リムル様のお連れしているその美しいお方は…」
「あーーー、ネージュは、えーーーーっと……そう!俺の大切な人だ!丁重に扱ってやってくれ!」
『え!?』
「リムル様の大切な人…!」
「姫!」「姫様だ!」




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