あの洞窟を抜けて森に出た。
洞窟の中でリムルさんは様々な魔物を倒して私を守ってくれた。
その中で彼はたくさんスキルを習得しているらしい。そんな簡単にスキルなんて獲得できるんだね…?
とおもいつつ。蝙蝠を倒した時に発声できるようなスキルを得たらしい。すごいね。
なぜかリムルさんと念話で会話もできるし、最近はリムルさんも発声練習をしているおかげで意思疎通に何も問題は起きていない。
森に出てから私は体の変化に頭を悩ましていた。
リムルさんはスライムボディゆえに食べ物も食べないでいいしゆえに排泄物等もない。
私も…そうだった。
食べられるけれど食べなくても大丈夫だった。
〈告、個体名ネージュ=テンペストの解析が終了しました。
保有ユニークスキル”愛求者”を確認。ならびに人間ではなく、精霊に近い存在であると思われます〉
ヴェルドラさんに共に名付けられたからだろうか。
リムルさんの所有するスキル”大賢者”さんの声が私にも聞こえるようになったらしい。
ふむ。大賢者さん曰く、私の所有するスキルは私と対話する者すべてに働きかけるようなものらしい。
人の好意を引きつける、好意を引きつけた相手の魔素を奪う。
そしてスキルの使用未使用に限らず自分自身に好意を持つもののスキルを共有使用可能…。
一種の精神支配、魅了だそうだ。使う意思さえなければ大丈夫だそうだけれど、
けれどそんな得体の知れないもの私の意思で制御なんてできているんだろうか。
「ある意味使い方次第で最強のスキルじゃないか?みんなネージュのことを好きになるってことだろ?」
〈否〉
『…いえ』
大賢者さんと言葉が被る。
リムルさんのスライムボディを抱きしめながら空を見上げた。
下にいたところと違うことなんて1つもない青く広い空だ。
『人の愛が必ず私を助けるとは限らないから』
言葉を区切った私にリムルさんは腕の中でふるりと揺れる。
『……悟さんは通り魔に刺されてなくなったと言いましたよね、
私は……私のファンを名乗る男に何度も”愛してる”と言われながら刺されて殺されたの』
私は、誰かに愛されたいと願ったけれど、
誰かに愛されてその愛に殺されてしまったから。
「大丈夫」
ぽよんと跳ねてリムルさんが腕の中から抜け出て座り込んだ私の前に出る。
「俺は__さんのファンだったし、今こうして話しているネージュも好ましく思ってるし。
同じ洞窟に生まれた仲間だしな、俺がネージュのことをちゃんと守るよ」
酷い矛盾だと思う。
人に愛して欲しい、人に好きでいて欲しい、と思っているのに私はその気持ちを怖がっているなんて。
『…守ってくれるの、私なんかを…?』
この世界は魔物であふれている。
目の前にいるこのひとを恐ろしく思いたくない、好きにならないでいてほしい、私のことを愛さなくていい。
今はただ一人になるのが怖い。
_そんな自分のためにこの優しい人を利用している私が嫌い。
「ああ!なんたって僕は悪いスライムじゃないからな」
『ふふ』
ああ、悟さんもゲームする人だったんだ。漫画の話でも花が咲いた。
リムルさんはそのネタが私に通じて嬉しかったのか今日その日は一段と楽しげに森を散策していた。