抱きしめてもらうのって心地いいから好き。
シズさんにぎゅっとしてもらったのが忘れられずにいた。

と、なんとなくリムルさんに零してしまったら、それが他の子達にも伝わってしまったらしい。
シュナには朝起こしに来る時と眠る時にぎゅーっとしてもらうのが日課になってしまったし、シオンは会うたびに抱きついて来る。大きなお胸が苦しい。
ベニマルも妹がいるお兄さんだからかたまにとても自然な流れで頭を撫でてくるしソウエイもなんとなく距離が近い。私の影を出入りするのちょっと恥ずかしいからやめてほしい。
ハクロウにはたまにおやつを貰う始末。美味しいからいいけれど。
鬼人たちに甘やかされるムーブに慣れてきてしまっている…。オークを倒した後もいてくれたらいいのにな…。
終わった後はどうするんだろうか。たぶん、頼んだら残ってはくれそうではある_と思う。
でもきっとそれはしちゃいけない気がする。

そしてリムルさん。
すごく真剣な話をしているはずなのに私のお膝に人型になって座っているのに、どうして誰も何も言わないんだろう。
子供の姿をしているから私よりも頭一つ分小さいリムルさんは私の両腕の中にすっぽりと収まってしまっていた。
先ほどシオンの料理の生贄にしてしまったことを根に持っているらしい。

リムルさんは本体がスライムだからか体温がない、…すこしひんやりしてるかもだけど。
匂いもない…と思う。気になってスン、と目の前にある形のいい頭に鼻を近づけるとリムルさんがびくっと震えて、少し恨めしそうにこっちを振り返った。
人の膝を占領してるんだから今のくらい見逃して欲しい。
前の世界にいた時からリュックとかぬいぐるみとか前に抱えるの好きだったけれど、リムルさんスライムの形でも人型でも収まりが良くていいな。落ち着く。

…いけない、真剣なお話の最中だった。


事の発端はリザードマンの一行がこの町を訪れたことから始まったらしい。
オークが攻めいってくるから共闘するために配下に入れ、そう言ってきたと。
しかもそのリザードマンのリーダーと思わしき子がまた頭にくる感じだったという。
ゴブタにボコされて帰っていったとかいつまんでリムルさんから聞いた。かいつまみ過ぎだ。

そんなことがあったことで、今後の方針について話し合うために会議が開かれていた。
もしかしたら__という話が現実味を帯びてきたからである。

しかも…

「はぁーーー?20万ーーーー??」

森へ偵察へ行っていたソウエイからの報告。
20万ものオークの軍勢がこの森に侵攻してきている、と。


「俺たちの里を襲撃したのは数千程度だったはずだが…」
「あれは別働隊だったのだ」


ベニマルの言葉にソウエイが冷静に返す。
そしてみんなで囲んでいる大きな机の上に置いた森の地図を指差しながら

「本隊は大河に沿って北上している。そして本隊と別働隊の動きから予想できる合流地点はここより東の湿地帯…
つまりリザードマンの支配領域ということになります」


隊の進む先に私たちのいる町はない。
でもそれならオーガの里だって進路の妨げにはなっていなかったはずで…。
リムルさんも難しい顔をして考え込んでいる。

「…オークの目的ってなんだろうな」
「ふむ…オークはそもそもあまり知能の高い魔物じゃねぇ。この侵攻に本能以外の目的があるってんなら何がしかのバックの存在を疑うべきだろうな」
「たとえば魔王…とかか?」

リムルさんの言葉に部屋の中の空気が緊張が張り詰める。
その空気を壊したのもリムルさんだった。他の子達はこわばった顔をしたままだったけれど。
机の上のポテチをモデルに作ったお菓子を一つ指にとってぱりっとかじって。

「…なんてな。何の根拠もない話だ、忘れてくれ」

無意識のうちにこわばっていたらしい私の指先にリムルさんが宥めるようにぽんぽんと手を添える。
魔王といえばシズさんを苦しめていたレオンというやつだ。本当に魔王が絡んでいるとして、複数いるみたいのそれとは限らないし。
もう一つとったポテチを振り向かずに私の口に突っ込んできた。ん、美味しい。
今は塩味しかないけどコンソメとかのり塩とか作れたら楽しそうだな、なんて。


張り詰めていた空気に神妙な顔をしたベニマルが口を開く。

「…魔王とは違うんだが。
オークロードが出現した可能性は強まったように思う。20万もの軍勢を普通のオークが統率できるとは思えん」
「前に話してたあれか。数百年に一度生まれる特殊個体だっけ」
「はい」



ハクロウとの剣術指導を見ていたときのお話か。
恐怖の感情がない化け物という話だった。


『いないって楽観視するより警戒した方がいいのかも…』
「そうだな」


私の言葉にリムルさんは頷いてくれた。
その中ソウエイが右手をリムルさんの右耳に当てて視線をこちらに寄越す。

「偵察中の分身体に接触してきた者がいます。リムル様とネージュ様のお二人に取り次いでもらいたいとのこと。
いかが致しましょう。」
「俺たちに?誰だ?ガビルでもうお腹いっぱいだし、変なやつだったら会いたくないんだけど」


ガビルというリザードマン、そんな癖強かったんだ。
逆に気になってくるな…。


「変…ではありませんが大変珍しい相手でして。
その…ドライアドなのです」


あ、リムルさんから思念伝達でドライアドのイメージ画像が送られてきた。
なるほど。そんな感じか。カードゲームとかによくいる木の精的なお姉ちゃんらしい。

「ほほう…お呼びしたまえ」

腕の中のリムルさんが大変そわそわしながらそう言った。
途端室内なのに木の葉が一枚ひらりと目の前に落ちる。と思ったら囲んでいた机を中心にぶわっと風が巻き起こり、
びっくりして思わず抱えていたリムルさんと座っている椅子ごと倒れそうになったのを傍に控えていたシュナに支えられ、
シオンが庇うように一歩前に出る。


「__初めまして。”魔物を統べる者”たち。及びその従者たる皆様」


止んだ風の中心に現れたのは一人の女性だった。


「突然の訪問、相すみません。わたくしはトレイニーと申します。どうぞお見知りおきください」


森を想像させる緑色の髪を持つその人はとても綺麗に笑って名乗った。


「俺はリムル=テンペストで、こっちはネージュ=テンペストです、
初めましてとレイニーさん」


椅子から立ち上がり、隣に並んで私ごと名乗ってくれたリムルさんに、トレイニーさんへ向けて小さく会釈する。
ざわざわと周りの子達が戸惑っている。そんなに珍しい人なのかな、なんて思っていると

〈解。ドライアドは森の最上位の存在であり、”樹人族の守護者”または”ジュラの大森林の管理者”とも呼ばれます。〉
なるほど、社長が直々に視察に来たみたいな感じか、というリムルさんの思念付きで大賢者さんが答えてくれた。
いつもありがとうございます。


「ええと、トレイニーさん?今日は一体何のご用向きで…」
「本日はお願いがあって罷り越しました。
リムル=テンペスト、並びにネージュ=テンペスト。魔物を統べる者よ。あなたがたにオークロードの討伐を依頼したいのです」


…まってリムルさんはともかく私まで魔物を統べる者判定なんですか…?
とても綺麗な笑顔でとんでもないことを口にしたトレイニーさんを見て、隣にいるリムルさんを思わず見下ろした。

 




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