〈解。個体名ネージュ=テンペストのユニークスキル「愛求者」の使用は一度も確認されていません〉


私の質問はいとも簡単に大賢者さんに答えてもらえた。
ずっと、ずっと怖くて聞けなかった。
大賢者さんはきっと嘘は吐かない。


『__……そっか、そっか…』
〈告。そしてこの声が聞こえていること自体が個体名リムル=テンペストの…〉
「わあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」



ちょっとその続きは俺がいうからあああああ、というリムルさんの大声で大賢者さんの声をかき消してしまったのだ。



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そう、時間はちょっと遡る。
シズさんを葬送し、冒険者のエレンさんたちを見送った後。
リムルさんのテントを訪れてみたのだ。シズさんにきちんとお話ししてみたらいいと言ってもらったから。


『リムルさん?いますか……失礼しました』


テントの入り口にかかっている布を腕で持ち上げて中を覗いてそのまま外に出た。
中にリムルさんとリムルさんがいた。いや、語弊があるけれど。

__リムルさんはシズさんを喰べて、人間に擬態をできるようになったらしい。
その姿はシズさんの生き写し。青みがかった銀髪に金色の目をした小さな子になれるようになっていた。
それはわかる。
その小さな子になったリムルさんと、女性みのあるリムルさんが対峙していた。


「ちょっっっっっっっとまってネージュ!!誤解だあああ」
『……』



分身を作ってどこまで変化できるか試していたらしい。他意はないと。
テントの中に引きずり込まれてそう力説されてその勢いに思わず頷いてしまった。
例の女性みのあるリムルさんはスライムの姿に戻っていた。
シズさんの眠っていた寝台に子供の姿を取るリムルさんと並んで座った。リムルさんの分身のスライムを抱きしめて、どう話を始めればいいのか悩んでいた。


『……リムルさん、私ね。ずっとみんなが私のことを好きだって言ってくれるのは私の持っているユニークスキルのせいだって…そう思ってる』
「…うん知ってるよ」
『だって、だって、私なんかのこと好きだなんて可笑しいんだもの』
「…そうだな、ネージュは自分のことが嫌いなんだよな」
『……知ってたの』


知られてたんだ。そっか。
その金色の目を見られなくて、視線がどんどんと下がって行く。



「大賢者」



リムルさんの高いような、低いような。
そんな声が静かに響いた。


「ネージュは今まで一度でもユニークスキルを使っていたか」
『…な、ちょ、っとまって』


〈解。個体名ネージュ=テンペストのユニークスキル「愛求者」の使用は一度も確認されていません〉



私の質問はいとも簡単に大賢者さんに答えてもらえてしまった。
ずっと、ずっと怖くて聞けなかったこと。
大賢者さんはきっと嘘は吐かない。
みんなが、向けてくれる暖かい目はちゃんと私を見てたんだ。


『__……そっか、そっか…』


掠れた声。
ぽたりと一粒スライムの体に沈んだ。

〈告。そしてこの声が聞こえていること自体が個体名リムル=テンペストの…〉
「わあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

ちょっとその続きは俺がいうからあああああ、というリムルさんの大声で大賢者さんの声をかき消してしまった。
突然響いた大声にびっくりして隣に座るリムルさんの顔を凝視してしまった。
彼は綺麗な顔を盛大にしかめてからゴホンと態とらしく咳払いをして私に向き直る。

「…俺さ、元いた世界でもネージュ…__さんのことが好きだったんだよ」
『え?』
「聞いてたのは歌声だけ。見えるものなんて何もなかったけどさ」

なんで?もどうして?も全部私が聞く前にリムルさんは続けて言う
それでも、とリムルさんは続ける。


「声を聞いてるだけで、話し方を聞いてるだけでこの子はきっと優しい子なんだってずっと思ってた
それももうこっちの世界に来て確信したんだけどな」


リムルさんはその両手を私に伸ばす。


「話し方も、歩き方も、好きだ。朝に子供達と歌ってるのがもっと好きで、俺を見てくれるだけで嬉しいんだ」


ぴくりと肩が震えてしまって、それでもリムルさんは小さな両手で私の両ほほを包んで両目が金色から離せなくなった。


「あっちの世界でも好きだったんだこの気持ちが嘘なはずないだろ」
『……』
「好きだよ」



またポロリと溢れた。


「女の子として、好きだ」
『リ、ムルさん』
「だから今日からちゃんと伝わるようにするよ」
『わ、わたし、きっとリムルさんが思っているような女の子じゃないわ…』


そう、そうだ。


「俺の好きな子を悪くいうなって!」
『!』


形のいいまゆを釣り上げて
むに、とほっぺたをつねられる。

『私、人に本気で好きだって、言ってもらったことないの』
「見る目ないやつばっかだよな」
『人を、好きになったことだってないの』

学校に通っていた時も、みんな私の表面だけ見て言葉だけはくれたけど、ずっと違うところを見つめられ続けてた。

「あいつ親がいないんだって」「可哀想だよな」

私は、私の気持ちはいつだって置いてけぼりだ。
人と関わるのが怖い。
信じるのも怖い。
でもそれ以上に人に愛されたかった。好きになって欲しいと思っていた。
たぶんそれと同じくらい、私は誰かを好きになってみたかったし愛してみたかった。


「一緒に知っていこう、ネージュ
あわよくば俺を好きになってもらうからさ!」



そういう風に言ってもらえるなんて思っていなかった。
きっと、リムルさんも私にとって運命のひとだったんだ。
だってじゃなきゃ、こんなにも簡単に信じても良いんじゃないかなんて思わないもの。

頬に添えられた手をそっと取ってその柔らかい手に額を寄せる。


『…うん、わたし、きっと』


リムルさんのことが好きになる。
とっても、とっても優しいひとだもの。
 
私のために、私を怒ってくれた。
この世界に来てからずっと守ってくれていた。

ずっと、こんな優しい目を向けてくれている、そんな優しい人だもの。
 
 
 




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