「今日も相変わらずネージュ様はなんて神々しい」
「愛らしくて、とても綺麗で神々しいお声…」
「しーー…っ聞こえない静かに」

朝と夜に小さな子供達に歌を聞かせてあげるのが日課になっていた。
牙狼族との戦いの時に歌っていたのを一人の子供にまた歌ってと強請られたのだ。
減るものでもないし歌うのも好きだし断る理由もないのでねだられるがままに歌っていたら日課になっていた
そしたら聞きに来る数が増えていった。ほぼ全ての子達が聞きに来てるんじゃないだろうか。


+++


町を建設中の中、リムルさんが森で数名の冒険者を保護して来たらしい。とハルナに聞かされて
その冒険者たちを持て成すために案内したというテントへと向かってみた。
お肉を鉄板で焼いて食をめちゃくちゃ堪能していた。
うん、お肉美味しいよね。

楽しそうにお肉を挟んではしゃいでいる三人と、もう一人の長い黒髪の女性とリムルさんがそこにいた。

あの黒髪の女性、以前占ってもらったシズエさんだろうか。
その女性とリムルさんが楽しそうに話しに花を咲かせていた。
それを見てテントに入ろうとしていた足をとめた。
…あそこに入る勇気なんて私にはなかった。

踵を返して町の外へと出る。
リムルさんと共有されたスキルで森の魔物にはそうそう負けやしない。
町を一望できる場所へとたどり着けばようやく一人っきりになれる。町にいれば誰かしらそばに来るから。
私を好いてではなく、ユニークスキルのせいだと、誰も知らないのだから。


『…私なんかを好くなんておかしいもの。』
愛されることなんてない、私なんかを。
だからこれは全部制御できないユニークスキルによるものに決まっている。


「_スライムさんの言う通り自分のことが嫌いなんだね、お姫様」


突然凛とした女性の声が聞こえ、バッと後ろを振り返ると先ほどテントでリムルさんとお話ししていた方がいた。


『……姫なんて、私はネージュと言います』
「私はシズ、どうかよろしくね」


そういって差し出された手を握った。


『…さっき、』
「ああ、そう。ごめんねスライムさんからちょっと貴方のこと聞いたんだ。とても可愛い同郷の子がいるって」


リムルさん…何を話したんだろう。と視線をシズさんから逸らす。
それにしても、私が私を嫌いだなんて。


「なんでそんな風に思っているのか、聞いてもいい?」
『_私がみんなに好かれているのはおかしいもの』
「…どうして?」
『私のユニークスキルは人の好意を集めると聞きました』


私なんかを好きになるなんておかしい。有りえない。私なんかを好きになる人なんて気持ち悪い。
そう、気持ち悪いのだ。だって親からも愛されなかった私が、他人から愛されるなんてあるわけがないんだから。
ほんとうは、この町にいるのも疲れる。
親すら愛さなかった私を、裏切らない保証なんてどこにもないんだから。
誰も信じずにずっと独りでいた方がもっとずっと楽でいられるから。でもいまだにここにいる理由は、私がこの世界で一人になる方がもっと怖いから利用しているからで。…ずるいなあ。


「…そっか。ネージュさんは愛の受け取り方を知らないんだね」


シズさんがそう呟くと、うんと1つ頷いて私の両手をとってそのまま優しい力で引き寄せられて抱きしめられる。
私より少し身長の高いシズさんのかたにポスリと顔が埋まってしまう。

あれ、なんだ、これ

次いでぽんぽん、と規則的な速さで背中を優しく叩かれる。


『うけ、とりかた』
「そう、みんなが大人になるまでに知っていくはずの受け取り方。
それは普通のことだけど、きっとネージュさんにとってはそうじゃなかったんだね」



優しい声だった。
突然のことに強張っていた体が徐々に緩んでいく。

こうやって、誰かに優しく抱きしめられたことなんて一度もなかった


『…でも、でもわたしは…っ』
「大丈夫、スライムさんから聞いたネージュさんも、今こうやってみて普通の女の子だってわかるよ
大丈夫、ネージュさんは人から好かれる、愛されるべきただの優しい普通の女の子だ」


優しくて暖かい手で両頬を包み込まれる。

「大丈夫、ネージュさんはこれから学んでいく。どうやって受け取ったらいいのかも、どうやって渡すのかも。
もっと欲しがったっていいんだよ」

黒色の目でまっすぐと見つめられ、まっすぐにそう言い切ったシズさんに、喉の奥が引きつり言葉が出てこなくなった。
目の奥が急に熱くなって、はらりと涙が溢れた。それを皮切りにはらはらと次々にこぼれ出す。
肉親ですら愛をくれなかったから、まして他人から愛をもらえるわけなんてないって思ってた。今でもずっと思い続けてしまうと思う。
けど、だれかに、そんな風に言ってもらったことなんて無かったから


「それでも不安ならちゃんとスライムさんに聞いてみるといいよ
怖がることなんて何1つない、あの町のひとたちの好意は紛れなく本物だから。
それに、私ももうネージュさんのこと大好きだよ」



そのまま手を引かれて森の中を歩き出す。
木漏れ日に輝く流れる黒髪を前に手を引かれるままに歩みを進める。綺麗な黒髪。
繋がれた手も暖かくて、気持ちがいい。

どうしてかな、この人の言葉はなぜか信じられる気がしたのだ。


「そうだ、ネージュさん歌がとっても上手いってみんなから聞いたの、よかったら夜に聴かせてほしいな」
『…また、ぎゅってしてくれるなら』


キョトンとした顔でシズさんが振り返る。
そして柔らかく微笑んで頷いてくれた。
 
 
 




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -