ずっと欲しかったものがある。
たぶん、最後に願ったのものも「愛されたかった」だった。
今年で二十歳と少し。
ネット上で顔を出さずに歌を歌って暮らしてる。
かわいい顔をした女の子の絵を被って歌って、ただ人から好かれたくて…
「愛してたのに…!!」
目の前の男はそう言って血走った目を私に向けていた。
どうしよう身バレ対策なんて死ぬほどしてたのに。
そう、愛されたかった。
母は私を産んですぐ亡くなって、母を愛していた父は私を愛してはくれなくて
育ててくれる大人がいなくなった私は孤児院でずっとひとりぼっちだった。
高校を卒業して、孤児院をでて小さなアパートに一人暮らし。
大好きな歌を歌って暮らせるならそれだけでよかった。
だけど、それだけじゃ足りない。
「こんなあばずれ女だったなんて」
私を勝手に理想に作り上げていた男が、勝手に私に失望していた。
震える男が握るナイフが薄暗い路地の街灯に照らされて鈍く光った。
「ああ、でも、でも愛してるんだ」
男の握るナイフが私の腹に刺さった。
一瞬冷たくて激痛とともに刺された箇所が熱を持ち出してその場に倒れこんだ。
ああ、刺された瞬間って冷たくてそのあとに熱くなるって本当だったんだ、なんて頭のどこかで考える
きっとこのあと誰にも愛されなかった私は、一人で死んじゃうんだ。
痛い、痛い痛い…!!
痛いのも、辛いのも苦しいのも全て嫌だ!
愛してる、愛してる愛してる。虚ろな目で呟いて私の体にナイフを突き立て続ける男。
愛、愛って何だろう。
この男の言う愛は痛くて昏い。
こんなもの、欲しくない…
こんな愛ならいらなかった!
愛ってきっとキラキラしててとても甘くて素敵なものなんだって思ってた。
ただ、普通の、街で見かけるような恋をしたくて、
街で見かけるような幸せそうな家族が、
そんなものが欲しかっただけなのに、私には、それすら拾えなかった。
ああ、でも嘘、こんな痛い愛でも、私は確かに誰かに愛されて死ぬんだ。
次があるなら____次は、ひとに普通に愛されるような、
そんな女の子になりたいな。
〈確認しました。ユニークスキル『愛求者』を獲得〉