地下迷宮に吸血鬼と人間が侵入してくると言う事件のあと。
オリヴィエ様が後処理に追われている中私は、自分の部屋に帰ってきていた。


『あ、オリヴィエ様にアストルフォがいつ位に帰ってくるのか聞いておけばよかった…』


どこに行くのかすら書かれていなかった置き手紙を思い出してため息をつく。
狩人の服を脱ぎ捨ててベッドへと身を投げ込むと、
大して疲れていないはずなのに、まぶたが重くなってくる。



『…私だって、戦えるのに』




そりゃあ、アストルフォと比べなんてしたらダメだけれど。それでも、私は守られるだけは嫌だ…。
彼が優しすぎるのも考えものだな。


__私だって吸血鬼を狩る狩人なのだから。










ふと、目が覚め瞼をあげると、すこし燻んだピンク色の髪が目に入った。


『…アストルフォ、』


もぞ、と目の前の人が動いた。

いつも私に向けられる大きな瞳は色素の薄い瞼の向こう側に隠されて長い睫が影を作ってる。
私の大好きな人だ。

よかった、今回は大きな怪我はないみたいだ。

目の前で規則的な寝息をたてて寝ているアストルフォの体を見てホッと息をつく。血の匂いもしないし。
問題児だの化物なんて言われて、こういう姿を見ているのは私だけというのは、少しだけ優越感。
無意識にアストルフォの前髪を梳くように撫でていると、


「……、起きたんですか」
『アストルフォの寝顔見てたの』



そう言ってみると、形の良い眉が少しだけ不機嫌そうに寄せられた。
ふふ。


『あ。そうだわ、アストルフォ、この後何もないよね?外に遊びに行きましょう!デート!したいの!』

「…は?」





***




お互いに着替えて、私はとくにおめかしをして。
いつもは結んでいる髪を両サイドで編み込みをほどこしておろして、いつもは着ることのないフリルとりぼんの多い今流行しているらしいドレスをきている。アストルフォもいつも見慣れている教会の服とは違って…うん、かっこいい。
地下迷宮、教会からでて首都の中心へと向かうために路上に走る列車に勢いだけで乗り込んだ。



「…で、どこか行きたいところでもあったんですかソフィア」
『え?特に何もないけれど』


あ、また「は?」って顔した。わかりやすい。
空いている対面座席を探して、やっと見つけて腰を下ろすと私の前に続いてアストルフォが静かに座る。
それにム、とすると席を立ってアストルフォの隣に座り直す。



『アストルフォとお出かけしたかったのよ!付き合ってくれるでしょう?』



肩を軽くぶつけてアストルフォにもたれかかるように体重を預けて彼の体の前に手を差し出すと、
ため息を吐きながらも微笑んで、



「仕方がないですね」



私の差し出した手をそっと取りそう言った。
どちらともなく取り合った手をぎゅ、とにぎりあった。


動き出した汽車が次の駅に着いた時、そとに綺麗な蒼色のドレスを着たヒトを見つけた。
淡いピンク色の短い髪の綺麗な人。

きっと、その身体も綺麗なんだろうな、普通の女の子。
らしくないことを考えてしまう。

私とは違う、綺麗な女性だ。

身体中に残った吸血鬼に残された所有印と、傷だらけの身体。
鏡に映った自分の体を見るたびに嫌になる。
それでも、隣に座る彼は言うのだ。



「…ソフィアのほうが可愛いですよ」




私の考えていることなんて筒抜けなのだと、当たり前のように私の見ている人を見たままアストルフォが呟いた。



『___』
「…ボクはソフィアがいいんですよ」

『……』




こうやって、欲しい言葉をすぐにくれる。
ぽかぽかと暖かい気持ちになって目を細める。


『…うん、ありがとう。好きよ』

「新しいドレスでも仕立てますか」

『…アストルフォが選んでくれるなら行きたいわ』

「最高に似合うドレスを選んであげましょう!おすすめの店があるんですよ」




アストルフォもやっとお出かけに気分があがってきたのか、ぱあっと笑顔になったのを見て、私も、同じように笑顔を浮かべた。




 


 




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