誰も、助けてくれなかった。

誰も、私に手を伸ばしてくれなかった。


目の前が真っ赤な炎に染め上げられていくのをただただ呆然と見ていた。
思い出が沢山詰まった私の家が燃えて崩れていくのを。

何もできずに、ただ、ただーーー 蹂躙されていく。

炎が蠢いて、愛していた家族の、兄の悲鳴が空間を劈く。
私をかばってたくさんの血を流した兄の体が小さな私の身体に倒れこむ。

数時間前まで、太陽の光を跳ね返して輝いていた暖かい金色が今は血に染まって光が見えない。
私と同じ、紫紺の瞳も光を失っている。


『…に、いさま…?』


いつもは握ったら優しく握り返してくれる兄の手は握り返してくれない、冷たいそれは私の体温まで奪い去っていく、


沢山の手が私に伸ばされた。
でもそれは私が求めた手じゃなくて、

目の前でいやらしく歪む長い長い牙が覗く口が厭に目について焼き付いて、離れない。離れてくれない。忘れられない。

私の首に、腕に、足に、爪の長い手が食い込み、長い牙が穿たれる。
命を吸い取られる感覚。言い知れぬ感覚が体を駆け抜けるあの瞬間。


今もなお体に残る忌わしい跡が憎くて、憎くて、憎悪した。

代々、宝玉を賜る家系だった。
教会に助けられた私は、奪われた兄に代わって狩人になるべく育てられて、
そして今




***




『…置いていくなんて酷い、アストルフォ』


地下納骨堂。
観光地とは別物の地下迷宮。狩人の住処。
その私の自室で。机の上に置かれたメモを握りしめ最愛の名前を恨めしく呟いた。

遠出の任務に出向くと、簡潔に綴られているメモを何度も見返した。
私ってばそんなに頼りないのかなぁ、と横に垂れた髪を弄る。

そりゃあ全開の任務では散々だったけれど…。
先ほどまで一緒に添い寝してたベッドに再び潜り込む。
かすかにアストルフォの匂いが残ってる。好き。



ーー帰ってきたらわがままに付き合ってもらおう。うん。そうね。それがいいわ。



枕に鼻を押し付けるように顔を擦り付けると甘い香りがふわりと香る。
耳元でシャラっとガーネットの耳飾りが揺れる音が聞こえた。
彼からもらったものだ。


『…ふふ、案外独占欲強いのかな、ガーネット、柘榴石。ふふ』


まるで自分のものだと主張しているみたい、
ああでも、あの惨劇からずっと空席である聖騎士の席にいつか私が座れるようになったら……

笑いながら足をバタバタと揺らしていると普段はあまり使われることのない拡声器が音を鳴らした。



『……』


「__そう、侵入者は二人、」




銀髪の吸血鬼と黒髪の人間、が地下迷宮に侵入してきたらしい。
枕に顔を埋めながらため息をつく。

流れてくる音声、たぶんローラン隊長の声だ。…を聴きながら部屋を出るために着慣れた黒い服を羽織り、前のボタンを閉じていく。


「彼らは教会のものから服を奪っている吸血鬼の方は強敵だ。気を付けろ」


青い布を腰に巻くといつもアストルフォがしているように後ろにナイフを巻きつける。
最後に赤い石のついた髪紐で髪を適当に縛ると武器を片手に持ち部屋を駆けでた。


「それと人間の方は必ず生きたまま捕らえること。絶対に殺すな」


きっとまだローラン隊長は拡声器のある部屋にいるはずだ。
その部屋に向かおうと足を向け、その途中にある廊下が悲惨だった。



『…これ、』



自動人形が暴走しているのか、狩人に人形が襲いかかっていた。こちらに向かって暴走してきた自動人形を自分の武器、大鎌で薙ぎ払う。
複数人の足音が聞こえ振り返るとマリアとジョルジュ、とその隊長、ローランがいた。



「な…なんだこれは…!?」 
『ローランさん!自動人形が暴走しているみたいで…!』




自動人形が襲いかかっていた狩人が動かなくなると、標的をこちらにかえた。それをすかさずローランが駆け出し自動人形についた星碧石を取り出す。
すると人形は動きの源が断たれたことで動きを止める。


「星碧石が紅く光っている…初めて見る反応だな」


ローランが手に取った星碧石は言われた通り赤く光っていた。

「ソフィア!」
『マリア』
「どうしたの?あなたたちの隊は任務があったはずじゃ…」
『うちの隊長に置いていかれたわ』

肩をすくめるとマリアは困ったように笑った。


「大事にされてるのね」
『…嬉しくないわ』


いけない。のほほんとした空気が流れてしまった。マリアと一緒に頬を両手で叩く。



「隊長…あの二人はおかしい…です」



廊下に倒れていた狩人が声を絞り出した。


「奴らはあまりにもこの地下迷宮を知りすぎています…!追っているはずの我々が気づくと背後に回り込まれ、妙な光を発したと思えば急に捕縛用の自動人形が暴走しだし、本来は狩人には反応しないはずの罠まで誤作動を起こしています。
まるで…我々狩人の方が狩られている側のような__…」


ぞわっと背中に悪寒が走った。
それはおかしい、地下迷宮に長けている狩人よりその侵入者のほうが地下迷宮を使い熟してるのは、

…もともとこの地下に住んでいた、とか?

でも、やることはあんまり変わらないと思う。人間はどうでもいいけれど、
吸血鬼はただ狩るだけだ。それだけ。
わざわざ狩人の本拠地に乗り込んできたのだ。

生きて出られるわけがなのよ。




 





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