「…ごめんなさい、…ボクが…ッボクのせいで……!」
ごめんなさいソフィアと、大きな目を溶かしてしまいそうな勢いで泣いてしまっているその子を、
私はただ、ベッドの上で、オリヴィエ様に一緒にいてもらいながら呆然と見ていた。
__本当は、泣き喚いて、全部、憤りも悲しい気持ちも、全部全部混ぜたどこにもやれない酷く苦しい感情をぶつけたかった。
あなたのせいだって。
大好きだった家も、焼けてなくなってしまったし。
お母様も、お父様も、もう私の名前を呼んではくれないし、暖かい手で撫でてもくれない。
ずっと私の手を取って引っ張って前を歩いてくれたお兄様も、もうどこにもいない。
”女の子だから”
私は狩人にならずに、普通の貴族の女の子として生きていくはずだった。行けるはずだった。
薔薇の国の詩にあるように素敵なものでしか作られていない女の子でいられるはずだった。
私の身体中に巻かれた白い消毒液の匂いがする包帯の下にはおびただしい数の吸血鬼につけられた所有痕が残っているらしい。
今目の前で泣きじゃくるその子…アストルフォの身体にも同じようになっているのだと、
昨日オリヴィエ様に教えられた。
アストルフォも、両親と妹を亡くしたって。聞いた。
彼の家に逃げ込んだ吸血鬼に情を掛けて、騙されて、私の家も巻き込まれたって聞いた。
私を見ずにただ「ごめんなさい」を繰り返して泣き続けるアストルフォをみて、
もしかして私に怒られて、責められて楽になりたいのかなって幼心に思ってしまった。
あの出来事がアストルフォの優しさのせいで起こったことを私は忘れない。
でも、同じだから
『…わたし、アストルフォのこと責めないよ』
泣き声がぴたりと止まった。
隣にいてくれるオリヴィエ様の目が驚愕に染まるのが見えた。
たしかにきっかけを作ったのは、アストルフォなのかもしれない、けど。
許さないのは、許せないのは優しさを利用して、彼を騙した吸血鬼だ。
『お母様も、お父様も…お兄様も大好きだけど、アストルフォのことも大好きだもん。生きていてくれてありがとう』
ぽろぽろと真っ赤な目を溶かし続けるアストルフォの頭を両腕で抱き寄せて囁いた。
『これから先も、一緒にいてくれないといやだよ……』
そう言ってやっと、枯れたと思った涙がぽろぽろとまた溢れだした。
ぎゅっと抱きしめたあの頃は彼のほうが少し小さかった身体。
お互いに本当にボロボロで。心も疲弊しきって。
この世界を呪っていた。
私にはもう、アストルフォしかいないんだ。
もう、こんな絶望の淵に叩き落されるような子供が、増えないように、
全ての元凶の化物たちを、吸血鬼を、世界の異端者を、全て全て全て殺して消して、狩って。
綺麗な世界を取り戻さなきゃ。
…あ、そうしたら、私
普通の女の子に戻れるのかな。
そうだと、いいなぁ。
幼馴染の、ボクの可愛い婚約者。
ボクがその幸せを壊してしまった。
「…今度は…ボクが、ソフィアを守るから」
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