__ぽん、とピアノの音が聞こえた気がした。

途端にキイイインと甲高い音が耳を劈く。


下で戦っていた二人も戦闘を止めて音のなる方…城の塔へと目を向ける。
ふっと空を影が覆うと上から”獣”が降り落ちて来た。ついでそれを追って来たであろう業火の魔女まで。


『あっ』


そうだ、ふと思い出して懐から取り出した計測器を見て目を見開く。


『アストルフォ!あの塔からすごい規模の”波”が発生してる!もしかしたら例の装置が使われたんじゃ…!』


波。
何かが書き換えられる。

声をあげた私にアストルフォが目の前の吸血鬼たちから目を離して私を見上げる。
彼に見せるように計測器を向ければ、一度獣へと意識を向けている吸血鬼を一瞥してから奥歯を噛む。


「塔に向かいます!!」


目前の吸血鬼か、教会の目的か。
天秤が傾いてくれてよかった。

階段を駆け上がって来たアストルフォと合流してそのまま走って塔の入り口へと向かう。
中へと入れば壁一面が本に覆われた部屋だった。中央に、教会の目的であろう装置を確認する。
その装置の上に白銀の髪を持つ少女と”何か”が立っていた。


「ソフィア!」


アストルフォに名前を呼ばれ腕を引かれた瞬間目の前に斧が振り下ろされた。
ついで襲いかかって来るそれにアストルフォが応戦する。


『自動人形…!?』


しかも武装してる…!
彼と共に襲いかかって来る自動人形を切って捨てると、部屋の中央、装置のほうから汚い鳴き声が響いた。
ヴァニタスがそちらへ向かって何かを叫んでいる。
それでも装置の上に立つ銀髪の少女は泣き喚く何かの首を絞め続けていた。


「吸血鬼ではそれを殺せない!!」


ヴァニタスの声が部屋に響いた瞬間、泣きわめき続けていた”何か”の姿が変わる。
外の殻が欠け、散って。
中から現れたものがあまりに眩しくて目を細める。
それが顔を表した途端、体の震えが止まらなくなった。


『(…あれは、なに……!?)』


部屋の中の空気が重くのしかかる。
重圧で吐きそう…!

顔を表したそれは、目の前にいる銀髪の少女の顔を両手で包み、口付ける。
それの髪が少女を包み込み、髪の隙間から苦しげに手を彷徨わせる少女の体が見えた。


「_あれは、”死を囲うもの”
原初なる紅月の吸血鬼女王ファウスティナの禍名だ」


苦々しげに呟いたヴァニタスの声が静寂を満たす部屋に響いた。
吸血鬼の女王…禍名……?
そうか、ヴァニタスの持つ蒼月の吸血鬼の本には吸血鬼の禍名を直せる…んだっけ…。

教会にはともかく…あとでオリヴィエ様に報告をしないと…。
最近の教会の動きに疑問を感じているらしいのだ。私は、オリヴィエ様の方が教会よりも好きだから。

吐きそうになる口元を押さえながらそんなことを考えていると壁を突き破って入り込んで来た”獣”と”死を囲うもの”によって暴走させられている銀髪の少女_吸血鬼の力によって、塔に亀裂が入り、崩れる。


「たたた隊長!!浮いてる!?浮いてますこれ!!?」

膝をつき慌てふためくマルコを見て逆に落ち着いて来る。

中央にあった装置にも亀裂が走り、光も途切れ、おそらく装置が壊れてしまう。
”死を囲うもの”は姿を再び変えると、先ほど雪山で遭遇した不気味なカーニバルが現れ歪んだ音楽を奏で始めた。
その音色にぐらり、と体が傾き、亀裂が走り崩壊を始めた塔から体が落ちて__


「__ソフィア!!」


思わず伸ばした手は、こちらへと手を伸ばしてくれたアストルフォの手を寸前でつかめなかった。



 





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