『マルコは他の狩人を連れて隊長の言う通りに”獣”のもとへ行って!
アストルフォのことは私が見てる…!』


副隊長でしょう…!
ヴァニタスが狩人をなぎ倒していくのを押し留めながら
マルコを振り返り、伝えれば、彼はぐっと奥歯を噛み締めて「坊ちゃんを頼みます、お嬢様」
そう言って動ける人にに指示を出し城へと走って言った。

_久しぶりにそう呼ばれたなあ…。

私たちの家族が健在だった頃に、よくグラナトゥム家にはお世話になっていたから…。
ふと、柔らかな彼と同じ色が視界を過ぎり、ずきりと胸が酷く傷んだ。


『アストルフォ!今”紅眼潰し”を…!』
「気を付けろノエーー!!アレがくるぞー!碧玉のローランも対吸血鬼戦で使っているというあの閃光弾だあ!!」


突然大声で叫んだヴァニタスに顔を青くさせ手にしていた閃光弾をぽとりと落とす。
案の定反応したアストルフォがぐるんっとこちらを振り返りギンと睨みつけてきた。

カンッと地面の石畳に石突をつきたてた音にびくりと体を震わせる。危ない。


「そんな試作品の力に頼らずとも、ボクは一人であの吸血鬼の首を狩れます…!」
『ハイ……ごめんなさいアストルフォ…手は出しません__』

「ちょろっ」


雪に埋もれてしまった閃光弾を見て舌を打つ。
とんでもない置き土産をしてくれた城へ向かうヴァニタスの背中を睨みつける。
アストルフォがローランのことを嫌っている…そんなことまで知られていたなんて!きっと他の聖騎士の方々の情報まで知られているわ。
前に地下迷宮へと潜り込んできた時もそうだった、なんなのあいつは…!

大きな荷物を抱えたまま他の狩人とともに城の内部へと向かったマルコから目をそらし、金属音を鳴らしながら戦う二人へと視線を戻す。


『…あの吸血鬼…さっきと動きが違う…』


やっぱり、手を抜かれてた…?
一撃、重い蹴りを槍の柄で受け止めたアストルフォが感情の読めない顔で柄を握る手を見ていた。
瞬間、彼の纏う空気、表情が変わる。


「消えろ、消えろ消えろ」


格段にアストルフォの動きが早くなり石突を地面へ突き刺しそれを軸にして吸血鬼の顔を蹴る。


「吸血鬼は一匹残らずボクの世界から消えろ!!」


手摺へ登り間合いを取ろうとした吸血鬼に
あと少しで鋒が首に届こうとしていた。


__”正義の柱”は穂先が伸びる。


偶然だった、偶然足を雪で滑らせた吸血鬼はそれを避け、其の偶然にアストルフォは隠しもせずに舌を打つ。

視界の端でごおっと燃え上がった炎を見て一瞬動きが止まる。

『業火の魔女…』

獣と、戦っているのかもしれない。そちらへも気を向けながら、
階下に落ちた吸血鬼を追って飛び降りたアストルフォを追って手すりへと身を寄せ舌を見下ろせば、城の設備の一部だったのだろう部分を引きちぎり、まるで槍のように構える吸血鬼に「は」と声が漏れる。
きっとアストルフォにとってこの上ない侮辱だ。

先ほどよりも激しく金属のぶつかり合う音が響き、ごくりと喉が上下する。
一際大きな音がなったと思えばアストルフォの槍が吸血鬼の持つ棒によって地に押さえつけられてしまっていた。


『_っアストルフォ…!』
「…アストルフォ、何故そこまで吸血鬼を嫌うんですか?」
「は?」

「すみません、ただ…知りたいと…思ってしまいました」


吸血鬼が問う。
”知りたい”と


「君は優しい人間だねアストルフォ」
「今日も話を聞かせてよ」
「君の家族のことを、よく出入りしてるあの女の子のことも、もっとちゃんと”知りたい”んだ」



まだ暖かい家族がいた頃に、
グラナトゥム家の庭に逃げ込んだ怪我をした子供の姿をした吸血鬼がいたそうだ。

彼は……アストルフォは、とても優しい子だから。

きっと狩人の手から逃げてきたその吸血鬼の怪我を手当てしてあげたのだと、のちに聞いた。
何度も庭で親に隠れてあっていたその吸血鬼に聞かれるがままに____。

そしてあの惨劇が起こってしまった。


「異端者の呪われた声でボクの名前を呼ぶな!!
”何故”?決まってるだろう!?いてはならないからだよ!!!」


吸血鬼は彼の優しさにつけ込んで、騙して、絶望に叩き落としたのだ。


「吸血鬼などはじめから生まれてきてはならなかった
存在することが許されない汚物なんだよお前たちは!!!だからボクはボク達は吸血鬼を消し去り”綺麗な世界”を取り戻さなくちゃいけないんだ!!!」

「それは、あんた個人の考えですか?それとも…”教会”の総意ですか?
かつてのジェヴォーダンで”教会”は何をしたんです」


吸血鬼の言葉に、ここへ来る前に見た資料の内容を思い出す。


「”獣”という存在を最初に作り出したのは”教会”ではないんですか?」


手の届く資料には何もなかった。
けど、

___禁書にはなにが書いてあったんだろう、と。




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