「いけません隊長!我々の目的はあくまで”獣”です!それ以外のことに時間を割くわけには__」
「うるさい!!」


先ほどアストルフォの振り上げた拳があたっった顎をさすりながらもマルコが慌てて言葉で止めようとするがアストルフォは聞く耳を全く持たない。



「ローラン…ボクが、あんなふざけた男に劣っていると言いたいのか___!」



アストルフォブチギレ案件です。
あわあわと武器である大鎌を抱えているとアストルフォから手を出すなとお達しが。
オリヴィエさん的にはこう言ったアストルフォの行動を諫めてほしいらしいのだが、これは仕事の邪魔をされているのだから仕方ないということで。
だってなんか獣を倒そうとしてる処刑人の邪魔をしてるしね!敵だよ敵!仕事を妨害する敵!

蒼月の吸血鬼とかそういう詳しい事情はしらないけれど…今度オリヴィエさんに聞いてみよう。
個人的にとても腹が立つしノエとかいう吸血鬼に加担してるのは明確なのだから、


「なんだなんだこの程度か!速さも重さもローランの足元にも及ばないじゃないか!」


あからさまともにも思えるヴァニタスの挑発。

『やっちゃえアストルフォ!!』

アストルフォとヴァニタスが交戦するのを横目で見て、視界の端で動いたものに目を向ければ先ほどまでヴァニタスとこそこそしていた茶髪の男…混血だろうか、吸血鬼ではないだろうけど妙な気配がする。
が、交戦する二人を見ながら駆けていた。

__これはこれは



『手を出すなっていうのは”一対一”での戦いのことよね…?』



まあアストルフォなら私が手を出さずとも軽々と避けられるだろうけれど、
私としても銃口を向けられているのを見て何もしないってのはね…!

茶髪の男が放った銃撃をアストルフォとの間に寸で入り、大鎌の刃で弾き防ぐ。


「うおっ」
『ころす』


二回もアストルフォに銃口向けやがって。あの人に傷がついたらどう責任を取ってくれるんですか
こちらのやり取りに一瞬気を取られたアストルフォの顔にヴァニタスの蹴りが入る。
寸前のところで避けたらしいけど擦り傷…!


「ソフィア!マルコ!!そっちの煩わしい男を片付けろ!」
「は、はいっ」


指示を受けたマルコが他の狩人に指示をだし茶髪の混血へ向かう。

「あーんそれはダメ」
「なあ!?」

『マルコ…!?』

が、木の上にまだ混血がいたらしい。
女性…なのかしら。でも体大きい…

「この銃便利ね、今度追加発注しとこうかしら」

などとうつつをぬかす混血に、残っていた狩人が生い茂る木を足場に混血を追いかける。


『あ、もしかして残り私だけかしら』

「私カワイイ女の子と戦う趣味はないんだけどね〜?」
『はああ?かわいい女の子だからって舐めないでくれます?』


ほんっと女性を大切にする文化は見上げたものだけど、こういうところよね!女性だからっていうスタンス!
私だって狩人なのだから吸血鬼と戦う術は持っているんだよ。


『私だってアストルフォの役に立てますーー!片付けろといわれたんだから…!』
「おいおいお前の部下はもうやられてしまったようだぞ!」


まだ私いますけど。
はは。女だからですか。そうですかほんといけ好かない男ですね!


「まあ隊長がコレでは当然の結果か!こんな愚鈍を聖騎士の座に据えるとは狩人は余程の人員不足か!?
…ああ違うか」


私がいくら大鎌を振り上げても混血は避けるか攻撃を受けるだけで、ほかの狩人がやられてしまったように縄が詰められた銃をこちらに向けてくるだけだ。数回放たれたそれは全て切り捨てる。

キンキンと金属が擦れ合うのが一時的に止む。


「お前の場合は家の力か。
アストルフォ・グラナトゥム。グラナトゥム家といえばかつての戦争…要は吸血鬼狩りで大いに活躍した一族だ。成る程いまだに”教会”との繋がりは強いとみえる
大方親におねだりでもしたんだろう?”えーーんパパァーボクどうしても聖騎士になりたいんだよーなんとかしてよーぅ”
はははっ!どうだ結構似てるんじゃないか!?」


…アストルフォに恨みでも本当にあるのかしらあの男。
挑発するにも踏み込んでいい場所と限度があるでしょ。あの人は私と同じだ。吸血鬼に家族を奪われ、吸血鬼に_…
_ぎり、と奥歯を噛みしめる。



「えっぐ…これ…あの子の家のこと全部知ってて言ってるわよね?」
「……、当然だろ」

「なあなあ教えてくれよ!親馬鹿お貴族様は一体いくら”教会”に積んで聖騎士の地位を買い取ったんだ!?」



ぐっと拳を握りしめて、今にもあの男に切り掛かりたいと軋む腕を押さえつける。


「…………な
ボクの父様を!!侮辱するな!!」



煮えたぎる怒りを忘れるな。
目の前で温もりを失っていく兄の姿。
最愛の家族を嬲り殺され、その手は私の体にも伸び、合わされた屈辱。辱めを私は絶対に忘れない。

__あいつらはこの世界に存在してはいけない。
私の復讐はすべての異端者を狩らないと終わらない。私を、最愛を辱めた異端者なんて__


『_全て、全て死んでしまえばいい…!』


力がなくて蹂躙された。でも今は違う戦う力をつけてきた。
もうあの頃の私は居ない、ただ蹂躙されるだけの弱い生き物はいない。体に残る忌々しい印を全て消してやっと私は普通に戻れる…!
異端者のいなくなった綺麗な世界で私はあの人と生きていきたい…!

それを邪魔するやつらは全部いなくなってしまえ
大鎌を振り上げ振り下ろすと斬撃が伸び、狩人たちを拘束する縄も網も全て切り刻む。

戦闘不能に陥って居た狩人が全て解放される。再び混戦が始まろうとした瞬間、雪に埋もれた地面から何かが飛び出してきた。

ついで、シャラン、と不気味な鈴の音。
オイルを指して居ないような歯車の音。

_全てが歪んだ音色。

銀景色だった一面に不気味な人形を模したカーニバルが現れる。


『…アストルフォ、』


ほかの狩人を置いて、一人離れたところにいたアストルフォの元へ走って向かう。


「…”シャルラタン”!」


ヴァニタスがそう呟いた。
そばにいた人形の首を大鎌で刈り取る。


「くそっ…なんなんだこいつらは!!」


しかし、切り離したはずの首も動体もビクンと弾むと切り口同士が歯車で繋がっていく。


『ひ…!』
「 …アラ?アラララ、アラ? 」


先ほど切り伏せたはずの人形の首が元通りになる。


「 ネエ貴方達……ドウシテソンナニ体中”印”ダラケナノ?? 」


…まるで、見通すような核心の言葉を紡いできた人形に、一瞬動きが止まる。
今、なんて言ったコイツ。

隣のアストルフォの空気が変わったのがわかる。
力が抜けて”正義の柱”が雪に落ちるのを見た。


「 1.2.3.4...スゴイ!全部で13個モアル! 」


首を、肩を抑えるアストルフォの名前を何度も呼ぶ。


「 …アル?イイエアッタ?アア残念今ハモウ5個シカ残ッテイナイノネ! 」



体を折りたたむように崩れてきたアストルフォの体を支えて、名前を呼びかけるも過去に起こった悲劇を思い起こしてパニックになってる。
息が荒くなって、私の肩を力の限り掴んで。



「 貴女モソウ!沢山アッタハズナノニ今は4個シカナイノネ!トテモ残念! 」

『…ざ、んねん?』
「 ソンナニ沢山ノ吸血鬼ニ所有印ヲ残サレルナンテ……貴方達ノ血ハヨッポド美味シカッタノカシラ……? 」



ヒュ、と喉がなった。
脳裏に蘇るあの日の記憶。
たくさんの赤を流して冷たくなった母と父。
思い出が炎に消えていく、最愛だった兄の体が折り重なって温もりが消えていく感覚。
たくさんの鋭い爪が伸びる手、開かれた口から覗く鋭い牙、
忘れられない惨劇。喉が痛い。目の裏が酷く熱い。


『……にいさ、ま』
「あ”あああ、あアッッ」



アストルフォを支えていた手から力が抜けて冷たい雪の上に頭を抱えてうずくまる。
途端咆哮を上げ、周りに蔓延る人形を切り伏せていくアストルフォ。
しらみつぶしに人形を破壊していく先にルスヴンの処刑人の姿。

処刑人に向けた”正義の柱”が赤いガントレットに弾かれてしまう。

「殺してやる……吸血鬼は一匹残らず」

すかさず腰に巻いた短剣を取り出し、処刑人に振り上げる。



「皆殺しにしてやる!!」



しかし、それは処刑人の前に立ちはだかったヴァニタスに弾かれた。
ついでヴァニタスに蹴り飛ばされてしまったアストルフォの元へ急いで駆け寄る。

『(…だめだ、撤退したほうがいい)』
震える私の手を見つめて、これ以上戦えないと判断する。

俯いて涙を流すアストルフォに声を掛けると、私の肩にすがりつくようにして腕が回される。


『あとで怒らないでね』

アストルフォの膝裏と腰に手を回していわゆる姫抱きをする。
『マルコ、あっちの方向にアストルフォの槍が飛ばされたの。とってきてくれる?』


それから、アストルフォと森を探索していた時に見つけた洞窟があった。
ひとまずそこに身を寄せて体制を取り直す。


狩人たちに指示を飛ばそうとしたその瞬間、空にまばゆい光が輝く。
その衝撃か人形達が一斉に消滅する。
あたりに積もっていた雪が舞い上がり視界が白に埋め尽くされた。






 





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