アストルフォの足元に倒れた人間だったものに目を向けてそらした。
私の隣に立つ彼は口元を歪めてひどく興奮した様子で左腕を右手でガリガリと、容赦なく掻いていた。
__たしか、そこには所有印が残っていたはずだ
「何故、殺したんですか」
明らかに異様なアストルフォに、ノエは困惑したように彼に問いかけた。
そこで漸く左腕をかきむしる手を止めたアストルフォがノエに視線を向ける。
「貴方は、狩人でしょう………なのにどうして人間を………!」
問いかけられた言葉にアストルフォはなんでもないように、
「この男達はボクを女性と見間違えました」
「……は??」
そういった。
うん。ノエの反応も間違いじゃないと思うよ。沸点ひくいというかちょろいんだもんアストルフォ。
でもそんなところがとっても好き。
「その上でボクの話に一切耳を傾けず、触るなという再三の警告も無視しました」
さすがに殺してしまうのは可哀想だけど。
なんていうか私も慣れてしまった。
私も初めてアストルフォと一緒に任務についた時、吸血鬼を前に豹変してしまう彼にはなんども驚いたし、恐怖もした、
でもきっとそれは私と同じ過去を持ってしまったが故なのだろうと思った時、私はどうしようもなく彼が脆い人なのだと思った。
そんな彼の一つに触れた時、教会にも狩人にも問題児だの化け物だと言われてる彼の本当が見えたと思ったのだ。
だから、私はそんな彼の、アストルフォの隣に立つにふさわしい人になろうと思った。
吸血鬼を狩る訓練も頑張ったし、彼のそばに居られるならなんでもできる。
「つまりこれは正当な防衛行為です」
アストルフォの異質さ、狂気に気づいたノエがふら、と一歩後ずさる。
「そして…勘違いされているようですが。
狩人の仕事は人間を守ることではありません」
槍のグリップを握り直すと同時に見せつけるように、”正義の柱”を持ち上げる。
「吸血鬼を狩ることです」
大きな瞳をさらに大きくさせて、笑みを作りながら言い切る。
頬についた人間の返り血が狂気をさらに助長させる。ノエが驚愕か困惑からか目を見開きながらアストルフォを注視した。
「ご理解いただけましたか?ムッシュウ」
駅でぶつかった時と同じように、ノエを呼んだと同時に容赦無く斬りかかる。
ノエが寸で避け、背後にあった大木を切り裂いた。
一般人なら避けられることなくその場で血を撒き散らして死んでいるであろうそれを避けたノエの瞳は紅く光って居た。
「紅い眼」
切り裂かれた木片が散る中、アストルフォはそれを見逃さなかった。
途端ノエはジェボーダンの森に迷い込んだ人間から、狩るべき吸血鬼へと成り下がったのだ。
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