パリから離れたジェボーダンの地。
汽車の乗り継ぎや、駅から馬車でなどで漸くたどり着いたのだけど、


『さっっむい…』


めちゃくちゃ寒い。
吐いた息が白くなっていて思わずため息を吐きそうになってしまった。
なんでアストルフォは平気そうな顔をしているんだろうか…あ、マルコも震えてる。



「宿に荷物を置いて着替えたらすぐに森に行きますよ」
『…はぁい』



***




ドレスからいつもの教会の服へと着替え、十字架を首から下げると内側に入り込んだ長い髪を払う。
動きやすいようにと髪を纏め、防寒対策にマントを羽織って大きなリュックを背負う。

一応森に入るはずだし、飲み水とかあったかいお茶とかその他諸々が入っている。

手袋もつけたいけど、やっぱり”獣”と戦闘になるとやりずらいし、と悩んでいたら部屋の外からアストルフォの私を呼ぶ声が聞こえてきて慌てて宿を出た。

結局いつものアストルフォと同じ、指なしグローブをつけてでた。
指先がちょっと寒い。嘘。ちょっとどころではないくらいに寒い。


『…あれ?マルコたちは?』
「遅いので置いて行きます」


え、いいの!?
驚いて動きが止まってしまった私を置いてアストルフォはどんどん先へ一人で行こうとする。


『あ、う、まってアストルフォ…!』


仕方がない、私の隊長について行く以外に選択肢なんて残っていなかった。




しばらく二人でこの小さな町の住人にジェボーダンの獣の情報と案内人を探して回ってみたものの、村人たちは怯えてか、警戒されてか、何も収穫がなかった。

そんななか、頭巾をかぶった小さな女の子と、その子の兄だろうか、幼い二人に声をかけているアストルフォの背中が見えた。
会話が一通り終わったのか、アストルフォが小さな女の子に目線を合わせるためにしゃがみ、彼女の頭をよしよしと撫でた。


『……おにいちゃんみたい』


自分のもういない兄を思い浮かべ、すこし寂しくなった。
私と違って温かみのある金色の髪の毛を持った優しい兄だった。自分の髪をすくい取って見ても温かみなんて一切感じられない薄灰色の髪で眉をひそめる。

いつのまにか話を終えたのかアストルフォが目の前に来ていた。
慣れた動きで私の手を取るとそのまま森のある方角へと歩いて行く。


「行きますよ」

『…なにか情報はあった?』

「いえ、"白銀の森"には恐ろしい魔女がいるとしか」

『魔女?吸血鬼ではなくて…?』



でも、どっちにしろ森には"ジェボーダンの獣"がいるのだから、
吸血鬼を狩りたいアストルフォにはあんまり意味がないのかもしれない。

そういえば、パリを発つときにマルコがなんで私たちだけ先行して、とか言っていたな…
だれか後から合流でもしてくるのだろうか、

そんなことを考えながら歩いているといつの間にか森の手前まで来ていた。


『…なんていうか、その、雰囲気あるね…?』


森の中は気持ち薄暗く見えるし、
ギイギイだかガサガサだか物音がするし。

『ねえ、クマでない?がおーってこない??』
「熊は知りませんけど狼はいるでしょうね」
『……!』
「なにしにきたんですか」

耳に物音が届くたびにビクッと体を震わせながら思わずアストルフォの方へと体を寄せてしまう。
それに彼は隠さずにため息をついた。
ぎゅう、とアストルフォのマントを握る。

むしろ歩くたびに落ち葉を踏む音でも怖い。
なんていうか、この場所はとても嫌だ。嫌な予感がする。


__なにか、違和感を感じて同時に歩みを止める。
アストルフォが上を見上げるのにつられて私も空を見上げた。


「…は?」
『__これが、"白銀の森"?』


っていうか寒!!

いつのまにこんなに雪が積もったの?
なにがどうなって、これジェボーダンの獣の仕業なの…!?

あまりの寒さに両肩をさすりながらアストルフォを見てみると、彼も一瞬で降り積もった雪を目を見開きながら見て固まっていた。


「おいそこで何をしている!」


ガサガサ、と茂みをかき分けて出て来た集団に思わず目を開いて固まる。

…いつの時代の服装よ、それは



「女二人で、こんな場所で何をしている」



『…アストルフォ』
「大丈夫です」


いきなり現れた謎の集団に思わず彼に擦り寄って手を取る。
時代錯誤の格好をした集団は私たちを取り囲むと、報告、とか、ムッシュアントワーヌと言葉をこぼす。

もしかしなくても、18世紀の事件で調査に来てた竜騎士だったりするのでは…?アントワーヌって確か国王の第一銃士の名前だったはずだ。

アストルフォが彼らに自分たちは"教会"の狩人だと名乗るが、彼らは信じる様子もなく、
しかもアストルフォを女だと勘違いしているのか嘲りを含む笑いが起こる。

あ、表情が抜けた。

アストルフォの触るな、という言葉も聞かずに、
私とアストルフォは彼らに両肩を掴まれ、距離を離されてしまう。繋いでいた手も離されてしまう。

途端に、彼からピリッと嫌な空気が流れる。


あ、これ、だめなやつだ。




 




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