なんでも誓うよ。

かぐやさま

放課後も怖いくらい人だかりができたが、私は無言で彼女の手を引き小走りでその場を後にする。周りのブーイングなど知ったものか、私のこの手は彼女のためにあるのだ。小蠅どもよ散るがよい。しっしっ!




「友達から聞いたんだけど、今日自転車競技部は1年生のためにコース説明があるみたい。だから決まったコースを通るはずだって」

「ほな、そちらに向かいましょか」

「えっと、コースメモみたいなの書いてもらったんだけど…スタートは裏門から芦ノ湖の方に走っていくらしいから、今からバスで行けば間に合うよ!」



そう言うと朧月さんは「だったら、うちの車が近くで待機してくれてはるから」と申し出てくれる。え、車が待機してるお家ってどんな家柄なんだろう。しかしそれはそれで有り難いことなので乗車させてもらうことになった。

校門から少し離れたところに黒塗りの車が一台止まっていた。迷わず彼女は車に向かっていくと、若い男性の運転手が降りてくる。



「梶さん、今日はお友達を乗せたいんやけど…」

「お嬢もうお友達さんできたの?いいですよ、このままお出かけなさるんですか?」

「えぇ、芦ノ湖までお願いできるやろか」

「はいな、そらお嬢乗り。お友達さんもどうぞどうぞ」




恐る恐る乗り込むとお尻に柔らかい衝撃と、いい匂いがする。朧月さんから香る良い匂いと同じ。(匂いを嗅ぎすぎて白檀っていうんよと笑われてしまった…)

運転手の人から彼女と私の分のポカリを渡される。ずいぶんと準備がいいなと思ったが、ここから芦ノ湖まで30分〜1時間はかかる為の優しい配慮であった。梶さん本当にお母さん気質。





「カスミお嬢、今日はなんで芦ノ湖まで?」

「自転車競技部が走ってるらしいて、少し見てみたくてなぁ」

「へえ、また自転車乗るの?」

「え!!朧月さんもロードバイクに乗ってるの?」

「そう、だからマネージャーをやらさしてもろうてたんよ」



「カスミお嬢のは趣味と違くて、レースで賞まで貰った実績もあるんよ」と梶さんは自分のことのように嬉しそうに言った。

それに少し恥ずかし気にうつむく彼女に「(ああ、女の子の可愛さや慎ましさってこんなに胸がきゅんとするんだ)」と素直に思った。男子の気持ちが今ならわかるし、この状況にドヤ顔をしたくなる。いや、車の中ではやらないけどね。



「も少しで着くよ。駐車場探して降ろしてあげるから待ってな」

「このコースの近くにお願いな」

「おお、まかしといて」



コースメモを見て駐車場を探してくれる梶さんはただの雇われ運転手というよりずっと保護者のようだった。

見晴らしの良い場所に車を止めてくれると、梶さんがドアを開けてくれる。そして朧月さんはその遠い直線にロードバイクの集団が見えると「おおきに、帰りは一人で大丈夫やよ」と若干早口で一言いう。返事も聞かずすぐに車道に駆け寄っていく。それについて行こうとすると後ろから梶さんが引き止める。


「お友達さん、カスミお嬢は見ての通りちょーっと鈍ちんなんだ。だから根気よく仲良よくしてあげてほしいんだ」

「こちらこそ!私でよければ…!」

「ありがとね、さ、お嬢が待ってるよ」

「あ!失礼します!」



バッとお辞儀をして一列の王者の行進を待つ朧月さんの背中を追いかける。梶さんの優しい表情を裏切らないように、私はこれからずっと良い友達になれるように努めようと誓った。







(うーん、梶さんも美人すぎる)






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