救世主より貴く。

かぐやさま

うちのクラスに転入してきた謎の京美人、朧月カスミさんは私の左隣の席に座っている。
彼女は京都から来たそうで、その独特なはんなりとした雰囲気と涼し気な目元に美しい顔、鴉の濡羽みたいな艶やかな長い黒髪はみんなを魅了していた。

朧月さんから右隣の席の問題児前田くんですら今日はおとなしく授業を受けている。いつもは足を投げ出してスマホをいじっていると知られたくはないのだろう。先生がひどくびっくりするものだから、前田くんはわずかに頬を染めて「まじうぜ!」と一回だけ大声で叫んだ。

担任の佐野先生から「教科書を見せてもらってね」と言われたからか、今日だけは彼女の机をくっつけさせてもらって、私の教科書を一緒に使う。緊張する騒ぎではない!

授業毎にどこまでやったとか軽く説明するだけですぐ理解できるようで、ちょっと意地悪な先生に指名されてもパッと答えが返ってくる。そうして先生たちも彼女が気に入ったのか、やたらと褒めちぎるもので…隣をそっと見ると困ったように微笑んでいた。そんな表情もたまらなく美しかった。



「カスミさん!お昼は私たちと食べない?」

「あ、ずるい!」



お昼休みになり、朧月さんの周りには人だかりができる。よくみると別のクラスからも来ているようで、今のところ私しかまともに話したことがないからだろうか困り顔の彼女と目が合う。はっとした。そうだ、困っているクラスメイトがいるのだからクラス委員長である私が助けてあげないと!



「あの、ごめんなさいね。実はお昼休みは学校案内するように先生に言われてたの。だから朧月さんは着いてきてもらえるかしら?」

「アッ……すんまへんなぁ、今日はそういうことですので。ほな」



席をゆっくり立ち、やさしく私の手をつかむと人並みに逆らうように歩き始めた。本人にそう言われては何も言えないのか、レッドカーペットを行くスターのように道が開いていく。

人気のない廊下までくるとそろりと手を放して向き合う。



「おおきに、花村さん!まさかこないに人だかりができるなんて…」

「仕方ないわよ、朧月さん綺麗だし!みんな仲良くなりたい気持ちわかるわ」

「えぇ?そ、そないに誉めても何もでえへんよ…」

「(本当のことなんだけど…)そのうち落ち着くわよ!そうね、このまま本当に学校案内しましょうか!さすがに3年生が使うような場所は案内できないんだけど…」

「まぁ!おたのもうします」



無駄のない所作でお辞儀をする彼女に慌てて「そんな畏まらなくていいよ!もうクラスメイトなんだし!」と急いで頭を上げさせる。常に凛とした彼女にそうされるとなんだか肝が冷える感覚になる。(それと尋常じゃないくらいの申し訳なさ!)

他愛のない話で笑いながら二人で軽く周る。そのころには私たちの間には敬語ではなく、普通に友達と話すような距離感になっていた。冗談を言うくらいお茶の子さいさい!ってくらいには!

授業で必要な部屋や移動教室の部屋の通路など、軽く説明しながらも楽しい時間を過ごしていた。途中自分の教室に戻り、お互いお弁当を持って中庭に出る。

朧月さんのお弁当はしっかりした四角い漆塗りしたような上品な筒。中身はバランスの良さそうに彩られている。私のはダイエット中だからOLのような小さい箱に野菜中心のお弁当。あぁ、彼女の栄養は全てあの決して小さくない胸に行くんですね。(じゃなきゃ細い身体のどこにいくの??)



「ここはほんま、広い学校やね」

「そうね、個人や部活などで優秀な成績、優秀な人材を輩出し続けている。所謂常勝学校ってやつだからね。個人にいろんなスポンサーがついていて、機材や必要なものを寄付という形で投資してくれているの」

「だから授業も最新鋭の機材を使えるんやねぇ」

「ありがたいことだよね!うちは特に運動部に力を入れてて、自転車競技部とかすごい有名なのよ」

「…自転車、競技部」



ふと朧月さんの瞳が揺れる。
お弁当をつつく手が止まるのを見ると”自転車競技部”というものに何かあるのだろうか。



「箱学の自転車競技部のお名前は、前の学校でも良く響いてはったから。なんや複雑な気持ちやわ…」

「朧月さんの前の学校って」

「京都伏見高校。そこもロードレースで有名で今年もインターハイに出るんよ。うち、その自転車競技部で少しだけマネージャーしとったから、だから複雑なんやわ…」

「あ、そうなんだ!じゃあまた自転車競技部のマネージャーやるの?」

「んー、今は決めてへんけど…回してるところを見てからでもええかなぁ」



部活見学も案内するという約束を取り付けると、予鈴が鳴る。私たちは慌ててお弁当をしまい、教室に向かうのだった。







(視線が突き刺さっていても貴女の隣は譲れないわ)



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