春の日差しが私を刺した。

かぐやさま

青い女子制服たちがまだほんのり残った春風で揺れる。
日本屈指のロードレースの名門、私立箱根学園高校に微かな桜と新緑がざわめいた。



「朧月さん、今日から貴女のクラスの担任になります。佐野です。よろしくね」



目の前の佐野先生はにっこりと笑った。
うちはうっすらと笑いながら「よろしゅうお願い致します」と返したら、佐野先生は「わっ」と小さく声をあげて顔を赤らめていた。京ことばが珍しいわけではないのにどうしてだろう小首をかしげる。


父の仕事の都合により京都から神奈川へ引っ越すことになったうちは、もちろん学校も転校しなくてはならなかった。

京都の高校で入学式もクラスでの自己紹介も終え、新生活を送ると思っていた矢先の出来事であり、急な転入先の”箱根学園”の制服は新調されることはなかったが、学校側の好意で特別に前の学校の制服でも許されることとなった。


桜がすっかり散り散りなってきた頃で、好きな部活にも慣れてきたときに強制的に辞めることになり、一個歳下の幼馴染からチクチク言われたのは心に刺さったのは記憶に新しい。



「ふぅん、カスミちゃん辞めるんやてなぁ。…僕ゥ許さへんよ。転校かて、ほんまは納得いかれへん。来年僕ゥのサポートしてくれるんやないの」



だって。心に刺さったと言うのは言葉が厳しいからではなく、これが寂しさの裏返しだからというのを分かっているから。



「せやから向こうでもいっぱい回す!いっぱい電話もする!休みには会いにいく!せやから…せやから、」

「……カスミちゃんしばらく忙しいやろから電話はそないしなくてもええよ。来るんも大変やからええ。だから身体は壊すんやないよ」

「…ひ、卑怯もん!こんなときに、素直になるなんて…そんなん言われたらほんまにさびしぃなるよ…」



こっそりもらした「…行きたない。ここでマネージャー、やりたかった」と涙交じりの言葉を幼馴染は何も言わず、大きな手で受け止めてくれたのを思い出す。車の窓から見える箱根の山々の風景が目の前に広がって、あの日の弱虫でわがままを言った自分に許しと厳しさを与えてくれているようだった。

うちは基本送り迎えは家で雇っている運転手の車。そして箱根学園のパンフレットを眺めながら通学路を覚えた。ここで、今日から新しく始めるのだと両頬に軽く手のひらで気合いをいれた。

爽やかな青と白のブレザー制服をその目で見ると、自分の身にまとっている黒と紫のセーラー服がとても浮いているように感じてちょっぴり恥ずかしい気持ちになったが、気を強く持とうと職員室を目指すのであった。





☆彡☆ミ☆彡☆彡☆ミ☆彡☆彡☆ミ☆彡





「朧月カスミです。よろしゅうお願い致します」

黒いスカートがひらりと揺れる。丁寧に腰を折って前を向くと目をいっぱいに見開くように凝視してくるクラスメイトたち。先生といい、ここでは関西弁は身近ではないだろうけど珍しくはないだろうに、なぜ嬉しそうな顔をするのだろうか。


「あ、えっと…朧月さんの隣は、あそこね」


ピッと指をさされた先は中央の列、一番後ろの席。可もなく不可もなく。
男女の列の間を縫って歩くと「よろしくねっ!」「あ!私もよろしく!」と女子たちが軽く手を振って挨拶をしてくれた。

席につくと佐野先生から「今日は隣の席の子に教科書を見せてもらってね」と言われ両隣の人を見る。左側は気の強そうなニヤ気顔の男子、右側は程よく茶髪でうす化粧の女子。迷わず女子のほうに声をかける。



「あの、今日一日ええですか?」

「も、もちろん!私、花村マナです。このクラスの委員長だから、困ったことがあったら何でも言ってくださいね!」

「おおきに」



お礼をいうと花村さんは「いいのよ」と笑って机同士をくっつけてくれた。こうしてうち、朧月カスミの箱根学園生活は幕をあけたのであった。







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