思わず胸に手をあてた。

かぐやさま

暑い。茹だるような熱気がアスファルトに反射している。2本常備している内のひとつのボトルを素早く取り勢いよく潰すと、冷えた水が頭を濡らしてその場かぎりの涼を取る。

それでも男たちがペダルを踏むのをやめないのはきっと今日は彼女が姿を見せないからに他ならないからだと荒北は思った。(なぜなら荒北もその内の1人なのだから)




「朧月チャン、今日と明日来ないってマジ?」

「らしいッス。家の用事があるらしくて、京都のほうに帰らなきゃいけないとかで」

「花村さんすごく落ち込んでたよね」

「うん、カスミちゃん不足で死ぬーーって運命クラシックが鳴り響いてるような声で唸ってた!」




相変わらず朧月チャンを過保護にしている花村サンの話を聞くともっと暑くなってくるから勘弁してほしい。泉田は同じ委員会で仲良くしているから除外されたのか、正直花村サンから俺らの評価は地に等しい。

泉田から聞くには「私は一緒に居れても授業中とかなのに、最近はインハイ近いから朝もお昼も帰りもチャリ部!!あーー!!ズルい!!」だそうで。この前なんて新開が朧月チャンの頭を撫でているのを目撃したらしく(ただのセクハラじゃね?)しばらく親の仇のような顔をされたとか。




計測タイムとかサポートとかで1年が駆り出されるからか通りで路がいつもより静かだと思ったわけだな」

「いや東堂、テメーのファンクラブ黙らせてから言ってくンない?」

「すまんな荒北!いつかお前にも慕ってくれる女子が現れるといいなあ!ワハハハ!」

「ウッセ!!」




「うるさくはないな!?」と走りながら去っていく東堂に後輩たちも苦笑いしながら見送ると同時に新開が戻ってくる。今日の暑さに汗が尋常じゃないくらいに出ているが、それが良いのか分からないが東堂ファンクラブの真反対の道に並んでいた新開ファンクラブが黄色い声を上げる。(アイツら日傘まで用意してまで応援するとかヤバすぎィ)邪魔で仕方ネェ。

いつもなら手で汗を拭ってあの腹立つバキュンポーズきめて甘ったるい顔で笑うところだが、今日はその気力がないのか肩で息をしながら俯いたままだ。




「新開さん!どうぞ!」

「あ、ありがとうカスミちゃ……いや、すまねぇ」

オイオイ、たった2日いないってだけでどうなっちまってンだ。この部はよォ。新開はこんなんだし、東堂だってさっきはいつも通りに見えたがタイムが下がっている。少なからずいつも朧月チャンがこなしていた業務をこなすことになった1年生はサポートのタイミングを掴めずにいたりと、みんな何かしら部活に支障が出ているのには違いない。(フクちゃんは鉄仮面すぎてワカンネェ)




「はやく戻ってきてヨ、朧月チャーン…」

「俺も心からそう思いますよ、まさか王者箱学ともあろうトップ集団が女子サポーター1人いないだけで回らないんですから」

「ユキ…」

「荒北さんも他人事だと思ってるんでしょうけど、俺から見たらアンタも十分調子悪そうですよ。ローラーすらいつも回してるより走れてない」




黒田の視線を泉田と追うと野外に設置された時計塔。部活動が始まった時間よりあまりにも進んでなさすぎるのを確認して一瞬にして息が詰まったように感じた。嘘だろ、冗談はよせヨ。俺は新開みたいに求めてもなければ、東堂のように焦がれてもない。まして黒田のような尊さを感じたこともない。俺にとって朧月チャンはただのサポーターだ。そのつもりだ。




「俺たち、朧月さんに心臓握られちゃってんですよ」







(ね、そうでしょ)



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