太陽を背に彼女は輝く。

かぐやさま

5月に入る頃には雨が毎日のように降っている。窓ガラスには雨粒がするすると伝って落ちる。その様子を見ているとどこか気鬱になるようだった。

結局部活も自主練扱いになり、ほとんどが身体休みと称して帰宅しているようだった。今日は横雨が激しいとクラスメイトから知ると、部長も知っていたのか「おー、東堂お前も無茶しないように休むときはしっかり休めよー」と労われながら手を振りながら去っていく。「お疲れさまでした」と背中に一言かけながらも、(何がお疲れさまだ、今日は走れもしないのに)と心の中で悪態をつくあたり、愛車に乗れないことに少しばかり不満を持っているのだろう。

それでも部室を覗いてみようという気力はあったみたいで、そこに自然と足は向かう。まぁいるのは大体泉田か葦木場か、嗚呼、荒北もいるのだろうな。フクと隼人はマシンをメンテナンスに出すと言っていたのでいないだろう。後は本当にやる気のある部員かメカニックか。




「アッ、東堂さん!」

「おう、やっぱり泉田はいたか」

「本格的に調整に入る前に記録取りたくて…それよりも外のコース見ました?」

「ん?」




「見ればわかるんですけど、」と少し面白そうに言いよどみながら表に顔を向ける泉田につられて1回外に出る。屋根のついた休憩所のベンチには荒北が口角を(それはもうニヤニヤと)つり上げながら座っている。俺に気づくと「オウ、座れや」とまた前を向く。

一体2人して何事なのだと勧められたベンチに座って誰もいないコースを見ていると、雨の音の中にギュッギュっとゴムの音。そして霧のようになった視界の向こうに何者かが走ってくる様子がぼんやりと浮かんできた。が、そのシルエットは男性にしてはあまりにも華奢で横雨に倒されてしまいそうなくらいに思える。




「お、おい」

「ビックリするよなァ、あれ」




真横をすごいスピードで雨を振り払うように走り去るのは、間違いなくうちのマネージャーだった。驚きに思わず立ち上がる。その目は見えない何かに食らいつく獣のそれであり、思わず身震いをした。ずっと目で追うと、獣だった彼女はパッと猫背の姿勢から顔を上げて人間に戻ると、部室に帰還するようだった。慌てて俺も興奮冷めやらぬ勢いで部室に向かった。



「朧月、さん」

「わっ!」



白いタオルを頭から被っていた彼女に後ろから声をかけると、ひどく驚かせてしまったのか勢いよく飛び跳ねた。ふとタオルから覗き見える烏の濡羽色のような美しい黒い髪から滴る水滴が、彼女の涼し気な目の色と合っているのか妙に艶っぽく感じてしまう。(いかんいかん!この東堂尽八、そんなふしだらな男ではないぞ!)

部室内から見ていた泉田と後からノロノロ来た荒北も彼女を褒めていく。おい荒北!「走れんじゃんよォ」と乱暴にタオルで頭を撫でるな!!



「ほんとはローラー借りよ思っとって、部長さんにも許可もろてたんです。でも表でたらなんや走りたくなってしもて」

「うちのマネジメントしてたら朧月さん走る時間ないからね。いつも感謝しているよ!」
 
「まァ、今までのマネージャーよりはずっと長続きしてるんじゃないのォ」

「全くもって素直にお礼が言えない奴よな、荒北は」

「ウッセ」

「うるさくはないな!」



山に吹く風のようにもう興味をなくした荒北に眉間にシワが深く彫り込まれる。普段から良く言われているとはいえ、いい気持ちがするわけがないのだから眉毛も釣り上がるに決まっている。
  
そんな些細なやり取りですら笑って見守ってくれる朧月さんは女神ではなかろうか!…あ、いや輝夜サマか!



「うち、着替えて来ますね。先輩方も練習しはるようでしたらドリンク用意しときますね」
 
「朧月チャンすきィ」
 
「荒北!」
 
「へいへーい」
 
 

泉田が困ったように笑って区切りがついたのか各々部活に戻る。ふと雨がいつのまにか止んでいる事に気づけば、曇天の隙間から差し込む少し夕焼けた太陽が覗く。眩しすぎて下を向けば、彼女が走った道がきらきらと反射していたのに気づいた。それが俺にはどうしてか神聖なもののように感じたのだ。
 
着替え終わった朧月さんが「ドリンク冷やしてますからね」と微笑む。やはり真っ黒なセーラー服は彼女に良く似合っている。夜を纏い、かのじょが笑う。俺の背中には太陽が光を放つ。
 
ああ、月が輝く原理をこの目に見てるようだ。 







(疼いてたまらないのは一体どこだと言うのだ)



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