06

クライマーのゴールはいつもこうだ。勝者は空を仰ぎ見、敗者はうらめしそうに地面に伏す。

地面が近い、今回は負けちまったなァ。目の前のほんの僅かな差だったが俺もユウマも東堂に届かなかった。悔しいがそれがロードレース。それがクライマーってやつっショ。

だが、まだ”本当のゴール”は踏んじゃいねぇ。なあ、東堂俺はお前のその驚いた顔が見たかったんだよ。巻島家〈うち〉の中でも人一番努力家で、諦めない男なんだよ、アイツはよォ!!



「尽八さん!!ゴールは俺が貰ったヨ!!」



下り坂に勢いがついているそのマシンは青いラインだけを残してその姿が遠ざかる。そうだ、元々これはクライマーの勝負ではない。ユウマが下ハンを握りだす。今まで上ハンだけで俺らについてきたんだぜ。ここからもっと速くなるっショ!

このコースは単純のようで、ロードの大会さながらに直線、平坦、坂道、下りまである。ここからはダウンヒルのように少し鋭角な道が続く。



「な、なんだ目の錯覚なのかユウマくんから星が出ているように見えるぞ!」

「ありゃユウマが勢いをつけて走るときに見えるっていう天の川〈ミルキーウェイ〉っショ!」

「天の川、巻島ユウマ…アッ!!」

「ククッ、聞いたことあったみたいだなァ」



ロードの海外雑誌に数多く取り上げられている日本人ロードレーサー巻島ユウマ!
いつもはアイウェアをしていて写真に素顔が晒されたことはない。髪の色もエメラルドグリーンと玉虫色じゃ表現に差があるからわからなかっただろう。

そして初めて実際にお目にかかる天の川〈ミルキーウェイ〉。海外のロードレーサーの間ではユウマくんのことを”星の王子さま”と呼んで慕う者もいるくらいだ。兄弟だからか、巻ちゃんと初めて会ったことを思い出させるその幼く似ている顔に気づかなかった自分がムカつく!

その呼び名にふさわしく星の輝きのようにキラキラとしているのに速く、いい笑顔。



「だがな!山以外も負けるわけにはいかない!俺らは王者箱学なのだから!」

「俺は王者とか優勝キョーミない!ただ一番速く走りたいだけなんだヨ!」



「うるァーーーーッッ!!」とユウマがさらにケイデンスをあげる。下りが終わるとあとは一直線。坂を下った先の2本目の白い蛍光柱!!巻ちゃんと追い上げるが足はパンパン。心臓はバクバク。息は絶え絶え。それでも止まることなど誰ができよう!



「もらっタ!!!」






天気は快晴、太陽の光も羨む輝きを纏い、巻島ユウマは一番に逃げ切りゴールした。
ああ、やっぱりこの時間が何よりも愛おしい。この幸福感になんて名前をつけたらいいのだろうか。勝負に負けても充実感が身体を支配している。

またとんでもないヤツが出てきたものだ。聖星学園に入るならなおさら、ユウマくんは今年のインターハイに必ず来る。我ら箱根学園も、きっと総北も警戒せねばならない。

そして俺と巻ちゃんは高校最後のインターハイになる。ユウマくんとは走る機会などずっと少ない。だからこの時間をずっと大事にせねばならないとスポーツドリンクを飲み干した。









(名前の呼び方はなんでもいいヨ!!…はぁ、やっと言えタ!)
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