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「はーい!じゃあ今日はコース取りするから1年生は3年生の後ろついてきてねぇ!」


選ばれた先鋭しか着ることの許されない”聖星学園自転車競技部のジャージ”
この学校のチャリ部に入部希望をするということは、それすなわちジャージに袖を通すことを目標にしている。というのは言わずもみんなである。

グリップにペダルと愛車の具合を確かめながら振り返ると見えるのは、大会規模のロードバイクの波。これが全て1年生だって考えると、今年は特に入部希望者が多かったことがわかる。羨望と嫉妬とが入り混じった眼差しを一身に浴びる気分はとっても心地よい。君たちにないものを僕は才能で掴んだのだ。ぜひぜひ存分に羨んで、奪い合う気持ちでいてほしい。



「ナルちゃん、どお?」

「今年はマシ、それだけだ」

「うひひ、ナルちゃん厳しいなあ」



相変わらず眉にシワが寄っている顔は鬼のような強面。それが怖くて同級生ですら滅多に近くに来ない。でもね、僕にはわかる。アレは集中しているだけなんだよね。

去年は惜しくも総合2位という不名誉なレッテルを貼られた聖星学園の中で特に苦やましかったのはナルちゃんに他ならない。
 
決して涙を見せない代わりに、その想いを道の上で発散させて身体をぶっ壊していたのは記憶に新しい。当時の部長は誰よりも厳しかったから、2週間の自粛はナルちゃんにとって辛い時期だったと思う。と、同時に部長は彼に人知れず泣く時間と、休息の時間を与えたのだった。(慈愛深い人であったのも良いところだったなあ、なんてもう過去のようだ)



「いやあ、人の波で王子様見えないねえ」
 
「チビじゃあ見えねェだろうな」
 
「仁志ウザい!!」



ナルちゃんは「汚い言葉はよせ」と言うと先頭に躍り出る。
 
これがレースなら僕は真っ先に「アシストより先に出るなよ!」って怒りながら笑って、仁志が「もっと回せや、チビ!」って声をあげる。軽口つつき合って緊張を無くして全力で踏む!それがお決まりのパターン。 
 
そうして築いてきた僕らの信頼関係も今年で終止符を打つのだ。なんとしても、勝ちたいという気持ちが溢れて止まらない。



「おい、ユウマ一番後ろにいるらしいぜ」
 
「レースではない。好きにさせとけ」

「そんな関白なこと言ってるけど気にしてるくせにさー」

「お前よりは気にしていない」

「ナルちゃんウザい!!」 

「逆に誰ならウザくねェわけ???」



僕らの3年間には、辛いことも苦しくて涙を流して寝る夜もあった。でもその次の朝には報われ笑顔になれる日もあった。そんな集大成を、あの1年生に賭けようとしている。

仁志を負かし、僕を高鳴らせ、ナルちゃんを燃え上がらせた男、巻島ユウマくん。

人混みに紛れてエメラルドグリーンが揺れる。









(悪魔は星に手をのばした)
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