もうすぐ、付き合って半年。
私から義高に想いを告げて、それを受け入れてもらうという形で、私たちは恋人同士になった。

それからあっという間に現在に至る。
大人になればなるほど一年は短く感じるというけれど、本当にそう思う。


「さて、寝るか」
「うん」


義高の住んでいるアパートに、布団を並べて敷いて。
そこに横になる前に、私はスマホを枕元に置きながら相槌を打った。

付き合ってから間も無くして、週に一度、こんなふうに義高の家に泊まるようになった。お互いにいい大人だし社会人だし、自然の流れだった。


「オヤスミ、お名前」
「…ん。オヤスミ」


パチ、と電気を消す音。
義高が私の上に軽く覆い被さって、触れるだけのキスを落としてくれた。そして薄く微笑んでから、彼も仰向けに寝転がる。

しばらくすると少し深い呼吸が繰り返され、彼が眠りについたのだと分かる。

「オヤスミ」って言って笑い合って、可愛いキスを落としてもらって、幸せな気持ちで眠りにつく。
最初はこれで良かった。これだけで良かった。…でも。


「(…やっぱり何にもないんかいっ!!)」


私と義高は、恋人とはいえ身体の関係はまだない。
いずれそうなるだろうとは思うのだけれど、付き合って半年、しかも泊まりまでしているのに、キス以上のことは何もないのだ。

今日という今日こそは何かリアクションがあるかもしれないと淡い期待を抱いて、下着も可愛いものを選んできたというのにこのザマだ。


もしかして私に魅力がないのだろうか、などと考えて落ち込むことも少なくない。本当に彼は私の事が好きなのだろうか。優しいから私の告白を断れなかっただけなのだろうか、などと考え出したらキリがない。

…そろそろ、私の気持ちは溢れ出してしまいそうなんだ。


「…」


どうして触れてくれないのだろう。
もっと私を求めてよ。私を愛してよ。

そんなことを考えながら、私は自分にかかっている布団を避けて、眠っている義高の身体に手を伸ばす。

縋るようにぎゅっと抱きつくと、義高の体温と、義高の肌の匂いが感じられて胸が切なくなった。


「…ん、お名前…?」
「…」
「どうした?」


眠たそうな声。
それでも私は構わずに、義高の身体に顔を擦り寄せた。彼は仰向けだった体勢を横向きに変え、私の顔を覗き込んだ。


「お名前?」


暗い部屋の中、カーテンの隙間から差し込むわずかな灯りが私たちを照らす。自分で思っているよりも、ずっと難しい表情を浮かべていたのだろう。義高が「お名前」と再び私の名前を呼んだ。


「どうした?」
「…義高、…あのね」
「ん」
「……」


言葉に詰まってしまった。
自分の感情に任せてしまったけれど、どう伝えればいいのだろう。
「私に触れて」なんて言ったら、変態な女だと思われないだろうか。

どうしたら良いのかわからないけれど、先走ってしまった気持ちは止まらない。私は義高の頬にそっとキスをし、じっと彼の目を見つめて、想いを訴えた。


すると、何も言わずに彼が身体を起こし、私に覆い被さった。顔が近付いてきて、唇が重なり合う。それはいつも交わしているような可愛らしいものではなくて、もっと深いもの。


でも、こんなんじゃ足りない。
もっともっと、義高が欲しい。

そう思って彼を見上げると、すぐ近くで情欲を浮かべた目が私を見つめ返した。初めて見るその眼差しにぞくりとする。義高もこんなカオをするんだ、と思った。


「…もっと、」


囁きにも似た言葉が唇から零れ落ちる。

さっきのキスより深いものが欲しい。
もっともっと私を求めて、私に触れて欲しい。

それに応えるように、義高が再び私に唇を重ねた。
今までに感じた事がない熱に浮かされて、私も義高の唇を求めた。


「…お名前」
「うん」
「好きだ」
「…私も、義高が好き」


その言葉が合図だったかのように、私と義高の距離はゼロになる。タガが外れたように思えたけれど、私に触れる手付きには彼の優しさが溢れていて。

この夜私は、ますます彼を愛おしいと思った。



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