「ん?お名前ちゃん、シャンプー変えたか?」 ここは霊とか相談所。 私は事務所のお手伝いとして雇われている。 お手伝いといっても本当に名ばかりで、お客さんにお茶を淹れたりお茶菓子の買い出しだったり、たまに顧客名簿の整理をしたりする程度。 あとは軽いお掃除をするくらいで、ほとんど霊幻さんの好意による雇用だった。高校生であまりお金がない私にはありがたい。 「え、よく分かりましたね、霊幻さん」 「そりゃな。お名前ちゃんのことは誰よりもよく見ているからな」 「ふふ、ありがとうございます」 デスクに肘をつき、「キラーン」という効果音でも付きそうな表情を私に送る霊幻さん。キメ顔というやつだろうか。 「さすが、イケメンさんは違いますね」 「ん?」 「女性の微かな変化に気付ける人はモテますよ」 霊幻さんはいつも、私の微妙な変化に気づいてくれる。 例えば前髪を切っただとか、リップの色を変えただとか、通学カバンのキーホルダーを変えただとか。 あの口数の少ないモブ君の考えていることも見抜いている節がよくあるし、人のことを見るのが上手い人だなと思う。 「…あのさ、お名前ちゃん」 「はい」 「俺は君の変化だから気づくわけだ。それは俺が君のことをよく見ているからという理由に他ならない」 「?」 「つまりだ」 デスクに腰掛けていた霊幻さんが立ち上がり、私の方へと歩み寄ってくる。 近づけば近づくほど見上げる姿勢になって、ああ身長高いなぁなんてぼんやりと思っていると、霊幻さんが口を開いた。 「…いい加減気づいてくれると嬉しいんだが」 「?何にですか?」 「…」 「霊幻さん?」 小首を傾げると、何やら彼は片手で顔を抑えて俯いてしまった。「こういうところも魅力なんだから仕方ないだろ…ガンバレ俺」と呟く声が聞こえた。 「あー。なんだ、お名前ちゃん」 「はい」 気を取り直したように霊幻さんは顔を上げると、まっすぐに私を見下ろした。そしてその長い指先で私の髪を一房取ると、それをさらさらと指先から溢した。 「いい香りだな。正直たまらん」 「本当ですか?ありがとうございます!」 「っ」 褒められたのが嬉しくて、にこりと笑って見せると、霊幻さんの顔がほんのりと赤らんだように見えた。 次はどんな変化に気づいてくれるんだろう、と思ったら私の心は弾んだ。 「(くそ、抱きしめたい)」 「(へへ、霊幻さんに褒められちゃった♪)」 ≪ | ≫ |