「…あれ?」 学校からの帰り道。 河原近くにある土手道の近くで、その人を見つけた。 彼は仰向けになって大の字に寝っ転がっている。少し離れているけれど間違いない。あれはマイキー君だ。 …寝てる。 私はひと一人分離れたところにしゃがみこんで、その寝顔を見下ろした。 高くて通った鼻筋に少し長いまつ毛。 夕陽に照らされて、ふわふわの金髪が柔らかく揺れている。 …触ってみたいな。 恐れられてはいるものの、実はマイキー君に憧れる生徒は少なくない。 男子はもちろんのこと、女子だって影では黄色い声をあげているのを私は知っている。…私だって、その中の一人だし。 一応同じクラスメイトで挨拶をする程度の仲ではあるけれど、ただそれだけだ。彼に抱くこの淡い気持ちなんて知られずにただ消えていくだろう。 …それなら。 足音をなるべく立てないように近づいてから、そっと手を伸ばす。どうか起きないで、と心の中で繰り返し念じながら。 けれど指先があと数センチで髪の毛まで届くと思った時、不意に私の手首が掴まれた。 「っ?!」 「ん?…あれ、お名前ちゃんじゃん」 私の下で寝ていた彼はいつの間にか目を開けていて、寝転がったまま私の手首を掴んでいる。 「…、気づいてたの?」 「んー、まぁ。なーんか気配すんなと思ってサ」 気配を察知。やっぱり彼は超人的なのか。 実際に喧嘩をしているところは見たことがないけれど、その噂はいつも風に乗って私の耳にも届いていた。 マイキー君は私の手首から手を離すと、上半身を起こして思い切り伸びをした。そして私を見上げて「で?」と問いかける。 「俺に何しようとしてたの?」 「えっと…」 「あ、もしかして俺に触りたかったとか?」 図星だ。思わず言葉に詰まってしまう。 人の気配に気づく上にこういう勘まで鋭いのか、彼は。 どう答えていいか分からずに目を泳がせていると、マイキー君はぐっと私に顔を近づけた。 「ホラ。触ってみなよ」 「…っ?!」 「アハハ、顔真っ赤になってやんの」 心臓に悪い。 彼の綺麗な顔が間近に存在することに耐えられなかった私は、思わず後退りしてしまった。 「…違う、虫がついてただけだし」 「ふーん?じゃあそういうことにしとこっか」 ニコッと微笑むと、彼は立ち上がった。 「お名前ちゃんは帰り、こっち?」 「う、うん」 「そ。じゃあ途中まで一緒に行こうぜ」 ポケットに手を突っ込むと、砂利を踏み鳴らして歩き出すマイキー君。 髪の毛を触ることはできなかったけど、一緒に帰れるなんてついてる。心を弾ませながら、私はマイキー君の後を追った。 ≪ | ≫ |