100回以上なら評価はA。 サッカーボールも、簡単に扱えた。 Gift ◆ 黄瀬は帰宅する為に、学校の外廊下を何の気なしに歩いていた。まだ少し寒い春風が、目の前の砂塵を巻きあげていく。 (あーあ、みんな頑張ってんな……) 横のグラウンドから、サッカー部や野球部、ハンド部なんかが一生懸命練習している声がする。また、反対側の体育館からは、ボールの跳ねる音やバッシュのスキール音がココにまで響き、それはそれで気分が急降下する。 あぁ、なんて憂鬱でいつも通りな放課後なんだろう。 (毎日毎日、飽きねえモンなワケ?) そう、うっかり左右に視線を走らせると、 (……はぁ、) 途端に今日一日の記憶が流れ込み、自分の心が寒々しくなるのを感じた。まだ肌寒い空気にぶるりと震えると同時に、体育のテストと女子の歓声とサッカー部の奴の焦りに満ちた目が色彩を欠いて蘇る。 それらのせいで口の中がざらつくような不快感を得た黄瀬は、心中独りごちた。 (オレが、悪いって言うのか?) ――んなワケないだろ。 苛立ち紛れに、地面に転がっていたコンクリの欠片をコツンと蹴りあげると、こんなときでも花壇に美しくシュートが決まる。 (ナイッシュー……さすがオレ) 心中で冗談めかした彼は、そんな光景にすら自分の心がぴくりとも動いてくれやしないことに気づいていた。 (――やっぱ、オレの理解者なんかいないんだ) 彼はいつも、一人ぼっちだった。 自分に敵う人間が居なくて、張り合いがなくて毎日がつまらないなんて、聞く人が聞けば生意気だと怒り出すようなものだろう。 それに関して黄瀬はちゃんと、自分のそれがある種の人間にとっては大変な苛立ちと嫉妬を生むことを知っていた。そういうことに関する目端の良さ、器用さすらも彼は神様から贈られていたのだった。だから自然と自らの力を制御するということを覚える。言い換えれば、彼は自らが人と円滑に付き合うためには、本気といったものを出してはいけないことを理解した――否、理解せざるを得なかった。 それは、10代の少年が至る結論にしては、余りにも酷すぎる話。 彼はすでに人生の大半の楽しみというものを味わえないだろう――自分の人生に見切りをつけていた。 神様からの過ぎたギフトは、結局は彼の首を締めるためのただの真綿みたいなもの。 彼本来の真っ直ぐな人間性を歪めるのに充分すぎる13年間。 それらを携えた彼は――誰よりも現実主義者で冷たい、そのくせ寂しがり屋な男は――一人ぼっちだった。 彼はそんな冷めきった結論を抱えながらジャリ、と地面を踏みしめて歩く。 後ろも前も左も右も、そこかしこで何かに一生懸命な人間ばかり目について心はますます渇いていくような気さえした。そしてそうは決してなれないだろう自分は、果たして不幸なのか幸福なのか――? (あー難しいことは考えたってイミねーよ!!) そこまで考えた黄瀬はぶるぶると頭を横に振って、またノロノロと足を踏み出した。 だが、 (あーあ、) 彼はそれでも完全に頭を切り替えることは出来ず、心中で呟く。 (つまんねーなー……) 自分に負けず劣らずどころか自分が絶望するほどの力量で圧倒してくれるような。 そしてなおかつ、切磋琢磨できるような。 こんなに舐めきった自分の頭をぶっ叩いて目を覚まさせてくれるような。 (……いるだろどっか!てか、でてこいよ!!!) 一瞬、足を止めて切に願う。だが、"当然"何も起きない。 黄瀬はフッと自嘲気味に笑って、 (……なーんてな) ……何、必死になってんだか、カッコ悪。 彼は自分を誤魔化すようにふわぁとあくびをして、少し滲んだ視界で前を見据え歩を進める。 そして誰も居ないことを何となく確認した彼は校門を抜け、いつも通りの帰路につくだろう。 いつも通りの一日は、こうしていつも通りに終わる。 『うおっと!!』 ちょうどその頃、一人の少年が勢い余ってボールを体育館から外に出してしまう。 コロコロと転がったそれを取りに行った彼は、ふと校門を見て小さくなりゆく黄瀬の背中を確認した。 あと数分早ければ彼に当たっていたかもしれない、そう思った少年は当たらなくてよかった、なんて思いながらボールを掴んで体育館に戻る。そして、そんなことがあったことすら、日常に埋もれて次の日には忘れていった。 ←→ 通常SS(黒バス)一覧に戻る Novel一覧に戻る topに戻る |