がちゃり。
僕はドアを開けて、生徒会室に入る。

「『あれ、善吉ちゃんだけ?』」
「あぁ」
中に居たのは彼だけ。
他の三人はまだ着いていないのだろう。
取り敢えず自分の席に移動した。
……そのときはまだ、暇だ、なんて思いながら。





正しいフラグの立て方







僕は取り敢えず自分のバッグをごそごそと漁って、まだ作り終わってない書類を取り出す。
そのときになんの気なしにちら、と視線を送ると、彼は困ったようにうーんとうなっていた。

「『……どうしたの?』」
そう問い掛ける。彼は問題集か何かを机に広げていた。仕事はもうないのだろうか。

あ、と突然思い出す。
そっか、すっかり忘れていたけど実力考査が近いはずだった。僕にはそんなものはないからうっかりしていた。

「数学の課題が難しいんだよ」
彼は問題集を見ながら答えた。教科書とにらめっこしつつ考えているようだが、上手いこといかないみたいでまたペンが止まった。
「『めだかちゃんに教われば?』」
試しにそうからかってみると、
「カッ!本気で言ってんのか?」
善吉ちゃんはそう言って再び黙り込んだ。

僕はなんだかつまらなくなった。いや、ただ単に構って貰えないのがムカついただけだった。善吉ちゃんのくせに。

だから嫌がらせついでにわざと彼の隣に座った。
「なんだよ」
彼は視線を落としたまま呟く。
「『お構い無く』」
僕はそう答えて、彼のノートを覗き見する。

案外乱雑な筆致で綴られた彼の解は、どうやら出てきた未知数の答えが場合分けの条件に適切でない、というところで止まっていた。

「……っ、みんなよ!」
彼はばさり、とノートを引き寄せた。僕をそんな彼に軽口を叩く。
「『お構い無くって言ったでしょ。ほらテスト近いんだから集中しろって』」
「じろじろ見られてたら出来る問題もできねーよ!!」
憎々しげに僕を睨み付ける。
「『ふぅん……でも、君一人でソレ解けるの?僕がみたところ、善吉ちゃんはどうやら場合分けが苦手みたいだねー……』」
ふふ、とにっこり笑顔でそう言ってみせた。
僕は最低最弱の過負荷。人の弱点がすぐにわかる。
まぁ、あんまりこういう使い方はしないけど。勉強の弱点だって一瞬で分かるんだよね。

「っ、な、」
目を見開いて驚く彼をよそめに、僕はさらりとそう呟いて彼のノートを奪い取る。
「『ま、確かにこれは勘違いするかも』」
ふふん、と鼻で笑って彼に返す。
「……分かるのかよ」
「『愚問だね。僕は別に勉強は嫌いじゃないよ。エリートを潰すにはエリートの真似事が一番じゃないか』」
僕は過去に思いを馳せた。入学試験で一番をとると大抵どの学校でも新入生代表の挨拶に選ばれる。
初めて学校を廃校にしたのは入学式の途中だったな。綺麗な体育館だった。校歌すら知らぬまま壊してしまった学校の思い出なんてそんなものだ。

「『大体普通に考えてみなよ。僕は先輩だぜ?』」
そんな物騒なことは敢えて言わず、一般論で返した。
「……たしか、に」
彼はうむむと唸った。
「『そんな愚かな質問をしちゃう善吉ちゃんに大サービス。ちゃんと正しくお願いしたら勉強教えてあげるよ』」
僕は可愛らしくそう告げた。とたんに彼は怪訝そうな顔で僕をみる。
「正しく?」

「『先輩にはどんな言葉遣いがいいっけ?しかもお願いするときって」

うぐっ、と彼は言葉に詰まった。

「っ……それは俺のポリシーが」
「『そんなの関係ないし、僕は悪くない』」
楽しいなぁもう。
彼は葛藤しているようだった。自力で解けないなら他人に頼るのがいいなんて分かり切っているのだから。

「……っクソ!確かに今回に限っちゃあ間違ってねえよ!!」
彼は語気を荒げてそう叫んだ。
「球磨川先輩数学教えて下さいお願いします!!」

……先輩、だって!
普段絶対に聞けない台詞に、今、自分は相当意地の悪い笑顔だろうなと自覚する。
「『背に腹は変えられないって奴?』」
だから、ねぇねぇ、と思わずからかってしまう。
「っるせえ」
彼は顔を顰めた。そんなに僕に敬語って屈辱的?って聞くまでもないか。
「『まぁ地球上で一番、最低最弱で負完全な僕に敬語を使った勇気を賞して、ちゃぁんと教えてあげる』」
そう言って僕がペンを取って問題を解こうとすると、
「そんなこと言うな」
彼は小さく呟いた。
「『え?』」
思わず顔を上げて聞き返す。声が真面目だった。僕、なんか変なこと言ったかな。
「そういうことを自分で言うなって、いっつも言ってるだろ」
めだかちゃんの言ってた通り、お前はもう自分が思ってるほど過負荷じゃない。彼はそう続けた。
「『でも、僕が過負荷ってのは変わらないし、君が僕に敬語を使いたくないのだってそうじゃ……』」

「違う!」


彼は鋭くそう言って、次にふっと恥ずかしそうに笑いながら言った。
「敬語使ったら、お前と対等になれないじゃねえか。俺はお前には負けたくない」

次に目を見開いたのは僕だった。
……僕に、負けたく、ない?
何を言っているんだろう。僕は負けるしかないんだよ。負けたくない、けど。当然。でも僕は、……僕、は。


「『……過負荷と対等なんて無理だよ』」
「それでも、俺は対等になりたい」

そう言って優しく微笑む彼に、嬉しくて恥ずかしくて……そしてドキドキした。
「『……あり、がと』」
「えっ?」
「『っ、なんでもない!!ほら勉強しよう!この問題から!!』」

僕は慌てて話題を変えた。ぽろり、と零れ出た言葉は括弧付いてたにしても恥ずかしかった。

……僕と対等になりたい、なんて言ったバカは初めてみた。

それに、僕の位置まで下がってくるんじゃなくて、僕を引き上げようなんて。

めだかちゃんじゃないんだし。本当にバカだよ君は。
でも、そんな君の言葉に嬉しくなった僕は、君より愚かな奴なんだろう、ね。

僕らしいな、と自嘲すると、
「何笑ってんだよ」
という彼の声。
「『ん、なんでもないよ。思い出し笑い』」
「……ふーん。で、ここの式なんだけどさ」

彼の質問に答えるために、くだらない思考は排除される。


――次にこの気持ちを思い出したのは、君が好きだと自覚したときだった。



キリリク小説でした。付き合ってなくて甘い善球磨……結局いつも通りな感じで申し訳ないです……
ナナシ様素敵なリクエストありがとうございました!!



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