「『善吉、ちゃん』」
「ん、待たせてごめんな。球磨川」
彼は先ほどまでの制服と違い、大分ラフな出で立ちだった。まぁ当たり前だろう。
さっきまで家でくつろいでいたに違いないのだから。明日の準備でもしていたのかもしれない。

「どうしたんだよ球磨川」
彼が僕の隣に座る。人の熱をリアルに感じて、思わず涙が零れそうになるのを我慢した。



「『善吉ちゃん、よく考えたら僕――君にちゃんと言ったことがない気がしたんだ』」
彼が来るまでの短い間に、彼に言う言葉を考えていた。


「……何を?」

怪訝そうな顔をする彼が愛おしい。

「『――好きだって』」
「……!!」

「『いつだって君からの言葉に甘えてきた。君はいつも、僕に好きだと伝えてきてくれたのに。あんまりな仕打ちだったよね僕。君に今日から半年と一日少ない前、告白されたときに一緒にいると約束して、なし崩しのようにキスをして、それから普通の恋人のように過ごしてきて、僕らしくないけれど慢心していたよ』」
「『――僕は善吉ちゃんが好きだ』」

きっぱりと、そう告げた。




「……球磨川……」
彼は泣きそうに顔を歪めながら、僕を見ている。ソレを見て僕も釣られて泣きそうになる。けど、まだ言わなくちゃいけないことがある。だからぐっと抑えて言葉を紡いだ。

「『でも、僕が好きなのは善吉ちゃんであって、君じゃないんだよ』」
「……え?」
「『だから、もうおしまいにすることにしたんだ』」
彼は何を言っているのかわからないというような顔で僕を見ている。彼にそんな顔をさせたくないのに。それでも、やめるわけにはいかないのだ。重ねて、同じような意味の言葉を続ける。
「『もう、やめにするんだよ』」

「な、なにいってるんだ球磨川……別れたいっていうのか?」

最初はそういうつもりだったんだけどね、なんて言葉は飲み込む。結局、それすら当たらずといえども遠からずという感じだった。

「『違う――ねぇ、キスしてよ』」
「え?」
戸惑っている彼の肩を掴んで、自分からそっと唇を合わせた。
彼は驚きのあまり目を見開いていた。真っ青な、まるで今の夜空みたいに深い青に、心が揺らぎそうになって――それでも唇を離した瞬間に告げた。

――舞台の幕引きのための言葉を。





「『別れるも何も最初から――僕たちはこんな関係じゃなかった』」


人生は、本当に劇的だった。ただ、その劇とやらが酷い茶番だっただけだ。

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