5.5



「ねぇ半纏」
「…………」
僕は答えない半纏に向かって話しかける。でもちゃんと言いたいことがわかっているのだから、それで何も問題はない。

「球磨川くんが善吉くんとの思い出を消せないのはズバリ――消したくないからだろうね」


そう、思った。

彼のシミュレーションは、僕も追体験に近いような形で(当然第三者的視点で傍観していただけだけど)見ていた。
だからあのまま回避されたルートを辿ることに危機感を感じ、ああやって"財部"にアクセスしたのだ。そして、"気づいた"二つの事実。

一つ目――あの回避は彼の願望に因るものだということ。

つまり、彼は善吉くんとの思い出、記憶、関係性、記念日――そういったものを無くしたいだなんて本当は思っていない。思っていないから、大嘘憑き《オールフィクション》も作動しない。考えてみれば当たり前のことだ。

「僕とは本当に正反対な子であること」

自分の抱える不安感と彼の抱える不安感を比べながらそう思った。
僕はこの世界がシミュレーションであるかも知れないと恐れている。
彼はシミュレーションをすることで自分の恐れを取り除こうとしている。

だが対偶が真であれば命題も真であるように、彼の気持ちは僕には理解できないが、苦しみは理解することができる。

それは、どちらがより苦しいとか、どちらが正しいとかそんな低次元の話ではない。
だからこそ力を貸して、スキルを貸して、そして、自分と同じ苦しみを課したのだ。


二つ目は、僕が最初から気づき、恐れていたこと。
だから何も感じない。そうであることを最初から知っていたし、今もそう思っていた。

でも、もし"本物"があるならば。"現実"がそこにあるのならば、

「僕達も、救われるのかも知れないね」


半纏はやっぱり返事をしなかった。

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