人のことを好きになることはよくあったが、その人と両想いになることはなかった。 だから、デートにいく、なんて夢みたいに幸せなことをしていいのかな、って思ってしまう。 それを彼に尋ねたら、嬉しそうに目を細めて、僕を抱きしめてこう言うんだ。 「当たり前だろ、バカ」 耳をつんざくような音をならすうるさい目覚まし時計のアラームを切って、目が覚めた。 「『……あぁそっか』」 一瞬、今日は休みなのに、という疑問符が頭を駆け巡ったが、思い直す。 今日は、君と遊ぶ約束だったね。 彼は僕と朝から遊びたいって珍しく駄々を捏ねて、僕は嬉しいくせにワガママだな、なんて揶揄してみせて。 でも彼は笑って、後輩の言うことくらい聞けよ、なんて言ったんだ。 適当に朝食をすませ、適当に身だしなみを整える。 服装はいつも通り制服にしかけて、普通の私服にした。前、彼と一緒に買った服に。喜ぶかも、なんて下心も携えて。 待ち合わせの場所にいくと、すでに彼はいた。手を振られたので振り返す。 「『ごめんね、待ったかな』」 「いや、俺もさっき来たし。それより……」 彼は僕の服装をちらりと見ると顔を少し赤らめた。 なんだかその反応に僕も気恥ずかしくなって顔をそっぽ向けて言った。 「『ちゃんと着てくるなんて僕偉いよね!褒めてよ』」 すると頭に心地よい重みがぽんとのって、彼が苦笑しながら言う言葉が耳に入った。 「えらいえらい」 ……君って本当に僕が好きなんだね。 優しい手から僕を愛しく思う気持ちが伝わるみたいで、すんごくすんごく恥ずかしい。 だから、 「『こ、子供扱いするなよ!僕は君より年上なんだぜ。敬語使いなよ』」 と一応反抗して括弧つけたが、彼にはお見通しみたいで、 「嬉しいくせに」 とか言われてしまった。 はいはい真実ですよ。 むすくれた振りをして先に歩きだした。 当然君の手をとって。 *** デートもおしまい。誰もいない暗い道路を二人で歩く。もう夜遅く、僕らしかいない。 「『ねぇ、次はいついこうか』」 「んー夏休みにもう一回くらいいきてーなどっか。海とか?」 「『えー海はやだよ!!僕の貧弱なアウトドアに向かない身体を日の下に晒すのかよ』」 「まぁ確かにじろじろ見られたらやだなー……アンタを」 「『僕をかよ!!』」 そうツッコむと彼はいきなり立ち止まって、 「だって恋人だし」 と澄ました口調で言った。 「『へ?ぁ、ぅ……い、いきなり立ち止まらないでくれる!?』」 そうやって直接的な表現に弱いって知っててわざとするから意地が悪い。 自分でも多分恥ずかしいくらい顔が真っ赤なのを自覚して、頬をおさえようとした手をからめとられた。 そして。 きゅっと抱き寄せられてくらくらするくらい彼の匂いに包まれる。 あぁだから弱いんだって免疫ないんだって。 好きな人とまともに話せるだけで1日幸せで、でもたったそれだけだったってことで1日不幸せ。 そんなことの繰り返しだったんだからさ。 そんなことを悶々と考えていると、 「あーもうデビルかわいい!自覚ないんですかいやあったとしてもかわいいんだよなあーもう!」 彼は意味不明なことを言って僕の頭に顔を埋めた。 流石に今日1日外にいたからクサイと思うんだけど。ちょっとやめてほしいなと思いつつなんだか背筋がぞわぞわする。 うんあぶのーまるな過負荷なんてギャグみたいだね。 僕の反応に気をよくしたみたいで、僕の前髪を捲り上げて額にキスをしたり頬にしたり鼻の頭にしたり瞼にしたり。 なされるままにしてたけど、なんだかイライラしてきて、唇を指差した。 そして、 「『してくれるよね!?』」 と言うと、本当に彼は嬉しそうな顔をして、 「当たり前だろ、バカ」 って言って僕にキスしてくれた。 なんだか、ね。幸せすぎて不幸せになりそう。 君がいない帰り道や君がいないときがすごく嫌で嫌で仕方ないんだ。 でもそれが幸福(プラス)というなら、幸福(プラス)と不幸(マイナス)は、実は全く同じものなのかも知れない。 だから君(プラス)と僕(マイナス)はこうやって抱き合ってキスできているんだねって、この長い長いキスが終わったら君に教えてあげるね。 相互記念小説です。善球磨で善吉ちゃんが禊ちゃんを好きで好きで仕方ない感じの甘いやつ!ということでしたが…… いいのかなぁこれで。甘いのむつかしい。 ミントの小さな世界のスーラ様のみお持ち帰り可!相互ありがとうございました! 捧げ物一覧に戻る Novel一覧に戻る topに戻る |