その笑顔は反則だから 「『ねぇ善吉ちゃん!今日生徒会おやすみだってさ』」 教室から廊下に出た瞬間、そう朗らかに声を掛けられ驚く。 「っ!……球磨川か」 「『ハロー善吉ちゃん』」 球磨川はひらひらと手を振る。俺より若干低い身長のせいで、見上げるような格好になりそのままへらり、と笑う。 で、ここでまず一つネタばらしをしよう。 俺はこいつが好きだ。しかも、割と特別な方向で。 え、と思った人の方が多いと思うので弁解。 俺もなんでかは分からないんだ。本当はあるのかもしれないんだけど、でも恋に理由は要らないなんて言葉もあるし。 ……それに何よりも俺がそんなことについて述べることの方が恥ずかしいから割愛する。 では場面を戻そう。 「なんで休みなんだ?」 突然声を掛けられた驚きとドキドキを気取られないように冷静に質問をした。 「『んーなんか今日仕事ないってさーあとで多分めだかちゃんから連絡くると思うけど』」 「……ふーん……暇だな」 珍しいな、と思う。 でもちょうど最近大きな行事ごとも片付けたし、今日確認した目安箱には平和な事に何も投書はなされていない。 平和ボケは恐ろしいが、平和なことはいいことだ、と思った。 「『そうだよねー急に放課後の予定空いてもなんにもすることないっていうか』」 「暇つぶしの方法を知らないってことか?」 「『そうそれそれ』」 球磨川は手をぽんと叩いて同意した。 その顔が可愛いな、なんて思っていると……―― 「じゃあ二人で遊びに行ったらどーですか?球磨川センパイ」 「……不知火」 きゅぽきゅぽ、という謎の擬音語をさせて俺の友達がやってきた。 その言い方はどこかからかうような調子。それに気づいているのかそれとも敢えて無視しているのか、 「『こんにちは不知火ちゃん』」 にっこりと球磨川が微笑む。 「こんにちはセンパイ。人吉ならどうせ、家帰ってからすることといったら筋トレくらいしかないんですから暇つぶしに使ったらどうですか?」 「ちょお前俺に何の恨みがあるんだその言い方!?」 あまりにもひどい言われようにいきり立って反駁すると、 「……いいのぉ?せっかくの機会、だよ☆」 俺の横にすすっと近寄って耳打ちする。きゃは☆と、エフェクトの星が飛び散るのが見えた。 げ、まずい。怪しまれたかと思って球磨川を見やると、球磨川は不思議そうに首をかしげて、 「『善吉ちゃんって筋トレばっかしてるの?』」 ……鈍くて助かった、と冷や汗をかいた。 不知火は胡散臭くにひひと笑って俺の傍から離れる。まったく………と心の中でぼやく。 こいつはどうやら俺の気持ちを知っていて、その上それを少し応援しようくらいに思っているみたいだった。……こんなにありがた迷惑という言葉が似合う奴もいないだろう。 「……」 そして俺は思わず黙りこんでしまった。 確かにいい機会だが、そんなことよりも球磨川と放課後遊ぶなんて夢みたいな響きにグッと来る。 「センパイどうせ暇なんでしょう?いつも過負荷と遊んでますけど、たまには<普通>と普通に遊ぶのも楽しいと思いますよ??」 「『……ま、善吉ちゃんがいいならいいけど僕は』」 「だってよ人吉?まさかイヤだなんて言わないよねぇ……?」 ……嫌な訳ねーだろ、とは流石に言えず、 「……別に、いい、けど」 そう言うので精一杯だった。 *** とは言え突然だ。特に二人とも充分な持ち合わせがあるわけでもないので、どうしようかと思っていると、 「『とりあえずお腹へったなぁ……マック行こうよ!ね!いいでしょ!』」 という提案を受けたのでマックに行くことにした。 人も疎らな学校の近くの駅前のマック。 適当にセットメニューを二人で頼んだ。 二人で対面するようなテーブルの席につく。 「『……なんか暑くない?』」 球磨川が不満そうに呟いた。 「……確かに、」 汗がじんわり滲むような暑さ。入り口に近いのもあるだろうが、冷房がついてるにしては効きが悪すぎる。 空調が壊れてるんじゃないのか、と続けようとしたが、するりと上着を脱いで適当に畳んでバッグにしまう球磨川の動作に目を奪われて出来なかった。 艶っぽい、とでも言うのか。 脱ぐときに髪がふわり、と少しだけ浮いてすぐに元に戻る様子。 そして俯きがちにテーブルの上のコーラを見つめて、そして。 「『善吉ちゃんもコーラ頼んだよね?』」 「え?あ、あぁ」 「『じゃあどっちでもいっか』」 視線が絡んで、すぐほどける。球磨川は手前にあった方のドリンクを手にとってストローを差し、 「『はー暑い』」 と呟きながらごくごくと飲む様子。 (やっべええ心臓に悪い……) 普段とは違う、ある意味二人だけの空間。 それがこんなにも破壊力を以って俺を苦しめるとは。 動作の一つ一つが、鮮やかに俺の目に焼き付く。 俯きがちにハンバーガーにかぶりつきながら話すその表情。 睫毛の影が顔に落ちてその顔の造形の良さが際立って、こんなに綺麗な生き物がいるのかと思う。 俺が口を開くたびに目を細めて笑い、あははと声を上げる。 笑うたびに髪がふわりと揺れるのが目についてしまう。 そして、やっぱり暑いねなんて言いながらまた唇にストローを宛てがう姿に心臓がつんざくような音を奏でる。 ……本当に、死にそうだと思った。 実のところ、この時に何を話していたか全く覚えていない。 多分普通に会話していたんだろうけど、俺はもうそれどころじゃなくて。 「『……って!ねぇってば!!』」 「あ、すまん」 だからこんな風に球磨川に怒られてしまった。 「『何ぼぉっとしてんの?』」 呆れたようにそうつぶやく球磨川にごめんごめんと謝る。 「いや、ちょっと考え事」 「『何、めだかちゃんのことでも考えてたわけ?』」 「んな訳ねえだろ!」 むしろお前のことだよ!とは言えない。 「『……それなら、いいけど』」 球磨川はふふ、と何故か嬉しげに笑う。 そんなにめだかちゃんのことが大切なのかよ。 めだかちゃんのことが大事なのは俺も一緒だけど、このときだけはなぜだか悔しかった。 「『てか、結局ダベって終わりだね』」 球磨川はつん、とすっかり結露だらけでびしょびしょになったコーラをつついた。 その動作がやけに幼く見えて、思わず顔が緩みそうになるのを抑える。 「俺ららしくていいんじゃねぇの?」 ぶっきらぼうにそう答えると、 「『……ま、一番僕ららしくないとも思うけどね』」 球磨川は急に神妙な顔つきになった。 「……そう、だな」 確かに、そうかも知れない。 とりあえず、つい何ヶ月か前まではこんなことになるなんて思ってなかった。 ……一番の想定外は、こんなに球磨川を好きになってしまったことだけど。 そんな考えに耽っていると 「『今日は不知火ちゃんに感謝しないと』」 ぼそり、とつぶやかれた言葉に反応する。 「は?」 「『あ、いや、いい暇つぶしの方法を教えてくれたから』」 あははは、と球磨川は笑った。 「お前……!」 やっぱりそうだよな、と落胆する心とは裏腹にいつも通りに怒ってみせる。 それに球磨川は笑いながら応えて、そして急に真面目な顔になった。 「『……ね、もしよかったら、なんだけ、ど』」 「?」 「『次の休みどっかに行かない?カラオケでもなんでもいいから』」 ほんと、もしよかったらなんだけどさ。 球磨川はそう言って俯いた。 「えーっと……それって、俺と遊びたいって、こと?」 「『……暇、だから』」 球磨川がぎゅぅ、と手を握りしめたのがテーブルの下から見えてびっくりする。 緊張してる?まさか、な。 「……もちろん」 むしろ願ったり叶ったり、とは続ける勇気はなかったが、もしかしたら顔が緩んでいたかもしれない。それくらい嬉しかったんだってことを分かって欲しい。 「『……ま、断られたってどうせ誘ってたけど、』」 球磨川らしいといえば球磨川らしい、可愛くない台詞だなぁと思ったが、 「『……でも、よかった』」 そう本当に嬉しそうに続けて微笑んだのが酷く印象的で、とても可愛くて、心が締め付けられるようで。 顔をほんのりと上げて、ゆっくりとふんわりと笑ったその動作がまるで動画みたいに頭に記憶される。 「じゃあ次は遊園地だな」 その映像をごまかすように、茶化すように呟いた。 「『え』」 球磨川が目を見開いて驚く。 「……冗談だよ」 本当に冗談のつもりだったのに、 「『……僕は……行きたい、なっ!』」 球磨川はそう呟くと、いきなりがたりと立ち上がった。 「うわっどうした!?!?」 「『なんかまだ足りないからまた買ってくる!!荷物見てて!!』」 そう言ってレジに走り去る。 その球磨川の耳がほんのり赤く見えたのは、やっぱり気のせいなんだろうか。 「なんだよ、いきなり……でも、遊園地、か」 くそっかわい過ぎる。言動も動作も何もかも。 だけど一番困るのは 「あの笑顔は反則だろ……」 そう呟いて、俺は机に突っ伏した。 球磨川が帰ってきたときに、まともな顔を作れる気がしない。 幸せすぎるため息をついて、俺は球磨川の帰りを待った。 5555HITキリリクで、「善吉→→→←球磨川気味/球磨川の行動に一々ときめく善吉」でした! 汐離様、素敵なリクエストありがとうございました!!なんか、あんまり設定活かせずすみません…… また「確かに恋だった」様からタイトルお借りしました。 捧げ物一覧に戻る Novel一覧に戻る topに戻る |