この恋は報われない。
と僕は思っていたが、そのあと思い返せば僕の恋が報われたことなど一度もないと気付いた。




君は友達じゃない





ある、普通の一日だった。
僕はもっぱら一人で帰路につくタイプの人間だったが、最近は蛾々丸ちゃんや飛沫ちゃん、怒江ちゃんが一緒に帰ってくれるので、一人になることは少なかった。

ただ、今日は生徒会室で仕事を片付けていたら、うっかり約束の時間を過ぎてしまった。
僕は彼らに待ちぼうけさせるのが嫌で、何分までに僕が来なかったら三人で帰るように言っていたのだ。


まぁ、いいか。一人でも。
そう思って、誰もいない待ち合わせ場所を通り過ぎようとすると善吉ちゃんがやってきた。

「あれ、今日は一人なのか?」
僕が事情を説明すると、
「ふーん……じゃ一緒帰ろうぜ」
多分僕は疑問に満ちた顔をしたのだろう。

彼は笑いながら、
「俺も不知火に帰られちゃってさ」
一人なんだ、と呟いた。





二人でこうやって並ぶのは、多分戦挙庶務戦以来な気がする。

僕は彼の目を潰したり嘘をついたりしたことに後ろめたい気持ちは全くない。
あのときの僕にとってああすることは最善である最悪だったから。

ただ、彼の気持ちはわからない。

大体、彼でなくても僕は僕以外の人間の気持ちが分かったことがないんだから。
「『善吉ちゃん、まだ怖い?』」

敢えて主語を外してみる。
すると彼は困ったように、
「まぁ、な。頭ではわかるが、体はまだ。特に目が」
彼はそう言って目を擦った。

「『普通の反応だね』」
わざと、『つまんない』と揶揄する。

すると彼はやっぱり笑って、
「当たり前だ、バカ」
と言って僕の頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。

なんだかそれが普通の友達みたいだなと他人事のように考えた。

目を擦ったせいで、彼の目は少し赤くなってしまったのに気付いた。
「『赤くなっちゃってるよ』」
「擦ったからな」

ふと思い立って、彼の両の目に向かって手を伸ばした。
彼はびくり、と震えて瞼を閉じたが無視してその瞼に指を当てた。
彼が不安そうに眉を顰めて、僕になされるままにしている様子は滑稽でもあった。
僕はくすりと笑い、
「『僕が君の視力をなくしたことがなかったことになりますように』」
と呟いて、そして僕自身の指を彼の瞼から離した。

彼は面食らったように
「…………無理だろ」
と言った。

「『うん。無理』」

だって僕にはもう「大嘘憑き」はないし、もしあっても不可能。
「『今のはただの願望だよ』」
というのは嘘だけど。

彼の中にたとえ恐怖という形だとしても、こうやって跡を残せたという喜び。

そして彼が、本当は怖くて怖くて仕方ないのに、今の僕を信頼しているゆえ僕に全てを委ねているという、彼の僕に対する甘い甘い認識。


なのに、その嬉しさとは反面、僕の心はマイナスに落ちていった。

「『神頼みみたいなものさ』」

「……そうか」
彼はいささか納得しかねる様子だった。

「『関係ないけどさー』」
これも嘘。
「『善吉ちゃんは僕のこと友達と思ってるの?』」

彼はこの質問には顔を明るくさせて、
「勿論だろ!そうじゃなきゃこうやって一緒に帰ってない」
「『ふぅーん』」

マイナスに落ちた気持ちはさらに急降下していった。

君と友達になんかなりたくなかったな、僕。

嫌い嫌い嫌い嫌い。嘘。好き。

「『友達かぁ……嘘みたいだ』」
これも嘘。
君と友達になることで手に入れた喜びは、簡単に捨てることはできないほど、僕にとって甘いものだった。
「『初めてだなぁ、友達なんて』」

彼はにっこり笑って、
「これからも友達でいてやるよ」
なんて言った。


僕は嬉しくて嬉しくて仕方ないみたいな顔をしてみせるんだ。
殺してあげたいくらい嬉しい言葉をありがとう。


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