放課後、生徒会活動が終わり、帰ろうとする途中だった。
「善吉くんっ」
語尾にハートが付きそうな声で呼びかけられて後ろを振り向くと、江迎がにっこりと笑っていた。
「ちょっと、来て欲しいところがあるんだけどぉーうふふっ!」
そうおどけたように言って、有無を言わさずに俺の手をひいてどこかに連れていこうとする江迎。
おいおい、いつも通り強引だな、とか思うが、右手に感じる彼女の温かい体温。そして腐らない俺の手。
そうだっけ、もう大丈夫なんだ。


そしてついたのは軍艦塔でマイナス十三組が使っている教室。

その場にいたのは、蝶ヶ崎と志布志とかいう過負荷の二人組。
何が起きるのかも分からない俺は、ただ驚いて目を丸くする。
そして、彼らは言ったのだ。

「今からちょっとした、尋問をさせてもらいますよ」







お節介なんて過負荷がするわけないじゃない





「……は?」
取り敢えず驚いたが無視をされる。

「……ふん、やっときたな」
「遅いですよ」

二人は目線で俺に椅子に座るように促す。
それに従うと三人は俺の前に椅子を三つ出して座った。

「はい、どきどき暴露たいかーい!」
江迎がしーんとした教室にあえて空気を読まない明るい口調で喋った。

「……はい?」
「んーまぁ暴露するのは善吉くんだけだけどねーっ」
江迎はやっぱりふふふ、と笑いながら言った。
その様子にうんざりしたように志布志が蝶ヶ崎に目線を送った。
「蛾々丸くん、説明してあげてくれよ。アタシより説明うまいだろ」
それを受けて蝶ヶ崎は
「仕方ないですね……」
とつぶやいた。

「まぁ、簡単にいうと貴方の真意が知りたくてですね」
「はぁ?」
なんのだよ、という俺の疑問が顔に出ていたのだろう。蝶ヶ崎は答えた。

「貴方球磨川さんのこと好きですか」

「は」

いや、意味分かんないんだが。
その様子を知ってかしらずか、志布志が言葉を継いだ。
「まぁ、なんだかんだいって球磨川さんは今でも私たちの大将なわけよ」
ふふん、と志布志は鼻で笑って言葉を続けた。
「だから大将のことが好きかもしれない奴はちゃんと調査するわけ」
わかる?と志布志はぶっきらぼうに言った。
「まぁ、そういうわけなの」
江迎は笑ったまま言った。

「だから教えてくれるよね?善吉くん。当然。あたりまえだよね?ね?ね?」

にっこりと笑って、文化包丁を机にどすん、と突き刺した。





こわいです。


蝶ヶ崎ははぁ、とため息をついて言った。
「私はこういうのは嫌いなんですけどね。まぁこの二人は心配みたいで」

そして続けた。

「で、どうなんですか」

キラキラとした目で江迎が。
じとっとした目で志布志が。
そして若干面白がっている目で蝶ヶ崎が。
三者三様の目が俺をいっせいに見つめた。




――確かに、俺は球磨川のことは嫌いじゃない。それは胸を張って言える事実だ。
球磨川には確かに色々思うところがある。
しかしそれも球磨川の個性という名の欠点なんだろうなと思えるようになった。
球磨川のぐにゃぐにゃに螺子まがりながらも筋の通った生き方や、考え方は嫌いじゃない。
まぁ、俗なことを言えば球磨川は男だが。


でも笑ったらとりあえず可愛いし、それ以外にもころころ変わる表情にすごくどきどきする。
それだけじゃない。球磨川の考え方が知りたくて、球磨川の括弧を外した本音がききたいなと思ったことはたくさんある。
球磨川が自分自身の口から「本当に幸せになりたい」と言ってくれる日を心まちにしている自分がいる。

そして球磨川の、心からの笑顔をまたみたいと願う自分も。

また幸せだと言って、笑ってくれないだろうか。
次はできれば、ふたりきりがいいな。









「……俺は――、」

すぅ、と誰かが息を呑む音が聞こえた。




「『あれ、みんな何してるの』」

ガラッとドアが開いて球磨川がやってきた。

がくっと三人はその瞬間肩を落として球磨川の方をみた。
「……何って……ええとちょっとした人生相談ですよ」
蝶ヶ崎がすました顔で言った。
「『ふーん……そうなの善吉ちゃん?』」
球磨川は小首を傾げて尋ねた。可愛い。
「あ、あぁ。こいつらの相談をデビルかっこ良く聞いてやってたんだ」
「『ふーん……まぁ、仲良きことはいいこと、かな』」
球磨川は小さく呟いて近くの机をごそごそ漁ってプリントファイルを取り出すと、バッグに詰め込んで、
「『まぁいいか。忘れ物とりにきただけだし。続けていいよ』」
そう言って外に出てしまった球磨川を俺たちは為す術なく見守っていた。

「……とんだ邪魔がはいったな」
「気分が削がれたわ」
「全くです」

「お前ら……」
球磨川のことが心配とかいいつつ、結局球磨川で遊びたいだけじゃねーかよ。
まぁいいか。
「じゃあ帰るからな俺」

そう言って俺は教室をあとにした。
ほんの少し、自分の気持ちに気付けた喜びを噛み締めながら。










「『あーもう信じらんないよ……』」
僕は教室から大分離れた廊下にへたりと座りこんでいた。
「『何が人生相談だよ全く……』」
僕は怒江ちゃんが善吉ちゃんを連れていく姿を遠目からみて、なんだか気になって跡をつけていた。

なんだかもやもやして。君たちが二人で仲良く手を繋いで歩くのが不愉快で。
だから気になって。
不愉快な原因は、僕にとって大切な二人が、僕には知らない理由で、僕には知らない事情で楽しそうに笑っていたから?
それとも?それ以外に理由があるのだろうか。

すると、アレだった。
「『……答え、聞けばよかったかな』」

あのままあそこにいれば、答えを聞くことはできただろう。でもそれはなんだか善吉ちゃんに対して失礼な気がした。僕は自分の感情を持て余した。最近、よくわからない気持ちばかり、括弧からあふれ出るように生まれていく。
それを心と言うのだと、めだかちゃんは優しく微笑んだ。

だから思い切って乱入することを決意したのだ。

彼女は僕に言った。
心は大切にするべきですよ、と。今から、球磨川先輩は、自分が生きていく意味を見つけていくのですから、と。
生きていく意味は、誰が教えてくれるのだろうか。彼女は善吉ちゃんから聞いたと言った。だから、君と仲良くなりたい。
だって僕も彼女も、絶対値では同じなんだから。
君も僕の事を好きになってくれないだろうか。彼女のことを好きだという気持ちのほんの少しだけでもいいから。





「『でも、僕がまさか君のことが好きなんて…』」

僕は立ち上がって、家に帰ることにした。
苦い気持ちと共に、ほんの少し、自分の気持ちに気付けた喜びを噛み締めながら。








「ねー気づいたました二人とも!球磨川さん本当は最初から聞いてたんですよね!?」
江迎は嬉しそうに二人に話しかけた。
「ええ、まぁ」
蝶ヶ崎はふふふと笑いながら答えた。
「気配はなかったことになっても、足音は聞こえたからなー」
志布志はどこか愉快そうに近くにあったポテチを貪った。

「全く、本当にキャラじゃないですよね私たち」
「蛾々丸くんにどーい」
「ふふふ、まぁいいじゃないですか」

そう言いながら、過負荷な三人は顔を見合わせて笑った。


通常SS一覧に戻る
Novel一覧に戻る
topに戻る
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -