まぁ僕だって健全に不健全なただの高校生だって話なんだけどさ。

と、ふらふらする頭で自己分析を下した。真黒ちゃん並、とはいかないけれどある程度的を得ていると思うんだけどなぁ。

いや、ただのよくある話だよ?昨日なぜだか眠れなくって、仕方ないから携帯弄ったりしてたんだけど本当に眠れなくて。
だから近くにあった漫画を適当に手にとったのが運の尽き。まぁ僕がツイてるときなんて今まで生きてきたこの人生で一度もないのだけど。

久々にこんなに寝てない一日だなぁと思った。適当にどっかの空き教室でいつものように寝ようとしたのにやっぱり寝れない。多分あまりの寝てなさに頭が逆に興奮しきっているんだと思う。でも体は疲れてる。なんて面倒くさいんだろう。

困ったな、なんて括弧つけてつぶやいたけど思った以上に自分の体はか弱いのだと思わされた。


「『……頭、痛いな』」
寝不足による頭痛。不快感。


「『誰かにぎゅっとしてもらったら』」
よく眠れるかも、なんて嘯く。
めだかちゃん?高貴ちゃん?もがなちゃん?善吉ちゃん?
それとも-13組のみんなかな。

見知った顔が瞬時に浮かぶ。

「『あ、』」
そういえば昔高貴ちゃんが今の高貴ちゃんじゃなかったころ、僕を抱き締めてくれたときがあった。
彼が壊した何かが、なぜか僕に報復とかいうよく訳の分からない理由で所謂闇討ちをしようとしたのだ。
そのオチは悲しい哉、彼らは僕によって壁に螺子留められていたのにも関わらず、破壊臣の一方的な「処刑」に耐えなければならなかったという悲惨なものだった。
その時に、気まぐれで『もっと早く来てくれなきゃ、僕死んじゃってたよ?』と言ってみた。そしたら彼は驚いたような顔をして僕を抱き締めて、「あ、生きてた」なんてつぶやいた。
僕はすっごくその返しが面白く感じて、きゃははと笑って『幽霊じゃないよ』なんて言ったら彼は、「アンタはいつだって幽霊みたいだ。生きてるかわかんない」なんて失礼なことを言って僕を笑わせてくれたのだった。

その後あまりの僕の笑い具合に安心院さんが不思議そうにしていたのを思い出す。経緯はどうせ見てたと思うけど、僕の笑いのツボは分からない、なんて小首かしげてた。



そのエピソードは僕的に彼のことを好きになるのには充分だった。
きっと今その話を持ち出せば嫌な顔をされるだろうけど。
だからこそ、僕はめだかちゃんが彼を今みたいにしてしまったことがつまらなくて悲しかった。あんな最低な僕に最低な返しをしてくれる彼はもうどこにもいなくなってしまったのだ。


なぜだかそれ以来時々、人恋しいと思うときがある。触れたいと、願うときが。
そういう原始的な衝動に身を任せたらどれくらい楽なんだろうと考えて、ふっと笑う。

「『暑い』」


自分の体を抱きしめて机に突っ伏す。熱い。汗がじんわりと滲んだ。
クーラーはつい最近から点かなくなった。
9月だからだって。だけどまだ残暑が厳しくて、暑い。
みんな文句言っていたけど、僕はそれよりも。

「『また夏が終わるよ』」



君が「そんな風」になってもうそんなに経ったんだ、ね。

そう思うと揺らめく意識がさらに熱に浮かされたみたいになる。
熱い。

けれど最近、その熱さが逆に好きになった。
あの冷たさにもう永遠にふれることができないのかと思うと悲しいけれど、今の暖かい君も好き。

だから逆に熱を求めるように、昔みたいにすがりつきたくなっちゃうんだ。



「『……僕って案外、寂しがり屋』」


空き教室でそう呟いて、僕は寝ようと試みる。


できればいい悪夢が見れますように。
今の彼にとっては悪夢な、僕にとっては懐かしい夢。

もし目が覚めたら、また彼が金色の太陽みたいな熱をくれるに違いない。
こんなに暑くて暑いのに。

だけど、それを僕は求めてる。



だから、僕ともう一回新しく関係を、築いて欲しい、よ。


呟きは夢の中に落ちて、僕も眠りに落ちた。







***







「『ねぇ、好きって言って』」
毎日、球磨川は俺にそう強要する。
帰り道、夕暮れ。

生徒会活動が終わって駅まで一緒に歩くとき。




球磨川と付き合いだした初日からずっと言わされているこの台詞に、俺はいつも通りに答える。

「好き、だ」
「『ん、満足』」

球磨川はそう呟いてにっこりと笑って俺の手をとる。暖かいその白い細い手に絡めとられ、俺も握り返す。

そこからはまた、いつもみたいにどうでもいい会話。
例えば今日のめだかちゃんのトンデモ発言とか、喜界島の訳のわからない行動とか。
阿久根先輩が告白されている現場を目撃しただとか。

本当にどうでもいい、付き合う前と全く変わらない会話。
付き合いだしてから変わったのは、前述のそのやりとりだけだった。



……で、ここで聞きたい。


例えば好きな人がいて、その人と思いを通わせて、それで満足できるヤツがいるのか?
いやプラトニックラブを否定するつもりはないが。
だけど俺も……まぁ普通な人間だし。
抱き締めてキスするくらい許してほしいな、なんて思う。


……手握れるだけで幸せだけど、さ!

「『ん、どーしたの善吉ちゃん。ため息ついて』」

幸せが逃げるぜ、なんて球磨川は笑った。
「いや……人間って欲深いなぁと思って……」
「『何達観してるのさ』」
呆れたように球磨川は俺を見る。
「幸せって何だろうな……」
そう呟いてもうため息。
「『難しい質問だねぇ……』」

球磨川はなぜか芝居かかった口調でそう呟いて続けた。

「『例えば君が今幸せだったとする。でも実はそれは幸せの段階的には1くらいなのかもしれない。二番目の幸せ、三番目の幸せ……』」
「幸せにも種類があるってことか?」
首を傾げてそう聞き返すと、
「『んー僕には分からないなぁ……』」

だ、け、どっ!

球磨川がぴょんっと飛んだのと俺の唇にふんわりと、触れるだけの柔らかい感触が伝わったのはほとんど同時だった。

「……!!」
「『君の幸せ吸い取ったよ!なんちゃって』」
唖然としている俺を尻目に球磨川はしてやったりという顔で、でも頬を赤くさせて笑った。

「『僕の前でため息なんてするからだよ』」


なんかもう、こいつの前では常識とか、普通とか、そんなもんが通用しないってしってた、けど。

「……お前サトリのスキルでも身につけたのか?」
「『は?』」
「……まぁ、いいや」


次はもうちょっと長いといいな、なんと思った俺の思いも伝わればいいのに。そんなことを考えながら球磨川の頭を撫でると、球磨川は頬を赤くさせたままえへへと微笑んだ。



「『よし、じゃあ次の幸せの段階へ行こうか!』」
「……やっぱ、変なスキル覚えただろ」
「『なんのことかな?』」


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