「『ハッピーハロウィン!!!』」
球磨川は生徒会室のドアを騒々しく開けた。

幸か不幸か、今生徒会室にいるのは俺だけ。いや、物語のご都合展開とかではなくて。
めだかちゃんの性格を考えたら分かってもらえると思う。
楽しいものと季節のものが大好きなめだかちゃん。
そんなめだかちゃんがこの楽しい楽しい行事をスルーするわけもない。

露出の激しい魔女とお菓子といいつつお金を請求するお姫様と無理やり吸血鬼の格好をさせられた元柔道部のプリンスは、校内を生徒会の腕章をつけたまま(やめた方がいいと思ったんだけどなぁ……)お菓子をばらまきに行った。
めだかちゃんいわく、
「楽しければいいではないか!!!」
……一ついわせてもらうなら、お菓子を配るのならコスプレする必要はないのではないだろうか。
そう思ったがウキウキしているめだかちゃんを俺が止められるわけもなく、お菓子で懐柔された喜界島が反対するわけもなく、めだかちゃんのコスプレ姿なんかみたくてみたくて仕方ない阿久根先輩が賛成しないわけがない。


だからと言って生徒会全員がそんなことしていいわけでもない。突然生徒会役員が必要な案件があるかもしれない。
俺がそう主張するとめだかちゃんは「……確かに一理あるな」と言いつつ了承した。
そして、庶務の俺は普通の格好で普通に生徒会室でお留守番をすることになったのだ。

…………球磨川と一緒に。





Trick and Treat!!





「……ハッピーハロウィン」
今頃校内を練り歩いている三人に思いを馳せながら気のない挨拶をすると、球磨川はむぅと膨れてみせた。がたん、と俺が座っている隣に座り、俺を指さす。


「『なんだよ気合入ってないなぁ……なに?善吉ちゃんもコスプレしたかった系?』」
「カッ!んな訳ねーだろ!あんなの願い下げだ……」
俺に用意されていたのは狼男。前自分のこと番犬って言ったのが響いたのかな……と遠い目で自己分析。
「『まぁね。僕と言ったら…………ひぃぃっ』」
想像するだけでおぞましい、とでも言うように球磨川は自分を抱き締めて肩をさすった。
「『なんでミイラなの!?ていうか包帯はもういい』」
「もういいってなんだよもういいって」
「『散々包帯まみれじゃん僕。色々と』」
面白みがない、と球磨川は口を尖らせた。
「……いや、そういう理由じゃないだろ普通」
「『えっそうかなぁ?』」
球磨川はすっとぼけた顔をしてみせた。
「そんな理由で断ったのかよ」
「『うーんまぁ半分半分?』」
「はぁ?」
俺が顔を顰めてみせると、球磨川はにやりと笑って、
「『ま!そんなのどうでもいいよ。そういえば善吉ちゃん、』」
「ん?」
続きを促すと、
「『ハロウィンって言ったら何を言うっけ?』」
「……ハッピーハロウィンじゃなくて?」
「『じゃなくて』」
俺は暫くわざとらしく考えてみせた。
「……トリック・オア・トリート?」
「『そ!せーいかーい!!』」
球磨川はそう言ってごそごそとポケットから袋を取り出した。

「『僕はここに新しい歴史の1ページを刻みたいと思う。すなわち』」
「は?」
「『トリック・アンド・トリートさ!!』」
……また始まった。俺はため息をついた。
球磨川はにやにやしながら取り出したばかりの袋を俺に押し付けて、
「『お菓子あげるからイタズラさせて!!』」
「えらい低姿勢だな!!」
俺が思わずそうツッコむと、
「『よぉし受け取った?受け取った?ねぇイタズラしていい?していいよね?』」
おい過負荷はどこいったんだ!と思わずツッコミたくなるようなキラキラとした笑顔でそう言うと、球磨川は有無を言わせず抱きついてきた。

「っよくねーよアホが!!!何するつもりだよオイ!!」
そう叫びながら球磨川を引き離すと、
「『え?ちょっと剥いてちょっとアレな感じでいこうかなぁって』」
「やめろおおおおおお!!」
可愛い顔で『きゃは☆』と笑って球磨川は手をわきわきと動かした。
「やめろ!!お願いだからやめろ!」
「『えぇ〜ひどーい……まぁいいけどっ』」
球磨川はのそっと俺から離れた。
「……ったく……なんでそんなにアレな方向で……」
「『むしろ僕が聞きたいんだけどなんで健全に行こうとするの?』」
なんで?と至極不思議そうな顔。
「健全じゃねえ!普通だ!!!」
「『えぇ……』」
ジト目な球磨川を更に冷たい目で見つめて、机に押し付けられた袋を置く。
「まぁ、コレはありがたく受け取っといてやるよ」

おいおい返せよ、とでも言うと思ったのに、球磨川はちょっぴり目線を逸らして、
「『そのお菓子さぁ……』」
「ん?」
俺は押し付けられた袋に目をやる。オレンジと紫のチェックに黒いリボンで結ばれたソレ。軽く振るとカサカサという音がした。
「『……美味しかったら教えてね』」
んん?
球磨川はなぜかバツの悪そうな表情でそう呟いた。
……もしかして。

「お前もしかして、これあげるためだけにトリック・アンド・トリートやらなんやら……」
何も言わない球磨川の代わりに袋を開ける。
中にはクッキーが何枚か入っていた。
「『あっ!ちょ、今食べ』」
「……ん、うまい」
焦ったような表情を浮かべる球磨川を尻目にぱくぱくと食べる。かぼちゃ入り?なのかはしらないがほんのりオレンジ色のソレやチョコが入ったソレはほんのり甘くてお世辞抜きで美味しかった。

「『……本当に?』」
首をこくり、と傾げて球磨川は不安そうに尋ねる。
「嘘言わねぇよ。おいしい」
そう微笑んで球磨川の頭をこつん、と小突く。
「ありがとな。作ってくれたのか?」
そう答えると、
「『……今度からちょいちょい作ってやるよ!』」
球磨川は質問には答えずにそう憮然と言い返して、
「『……あのさぁ、お菓子あげるからイタズラさせてって言ったけどさ……』」
俺がクッキーを口に運ぶ様子を眺めながら、
「『お菓子あげるからイタズラして、じゃぁダメ?』」
俺にばふん、とよっかかった。

真横だから顔は見えないけれど、その耳は真っ赤で、それに反して挑戦的な文句に俺も思わず顔を赤くさせながら、

「ハロウィンだから仕方ない、よな?」

そう言い訳めいた口調で呟くと、クッキーを机の上において、その細い腰に手を回した。


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