!警告!
若干めだもが的な要素があります。
ほとんど全部善球磨ですが、ちらっと。
大丈夫な方はスクロール。


























夏と青春と花火とデート






今日が花火大会だと思い出したのは偶然だった。
球磨川と二人でたまたま近くのコンビニの前を通ると、コンビニの店員がせわしなく屋外用の売り場を作る準備をしているのが目に入る。

そのコンビニの窓ガラスに大きく、花火大会という文字と綺麗な写真のポスターがはってあることにも同時に気付いた。

「『そういや今日花火大会だっけ』」
球磨川はそう呟いた。
「みたいだな……」
俺は相槌を打つ。球磨川はいつも通りの顔だった。
「『車は混むし電車は人でごったがえすし……いかない人間からしたら迷惑極まりないね』」
球磨川はそう呟いた後に顔を顰めて歩きだした。俺は黙ってそれを聞いていた。
「『花火の音はうるさいし、出店には行きたいなとか思っても一人じゃ行き辛いし』」
球磨川はそう続けた。
俺は黙ったままだった。
「『ね、そう思わない??』」
球磨川は振り向いた。ほんの少し、悲しげに見えたのは俺の都合のよい目のせいなのか。俺は思わず答えた。

「一緒に行くか」
「『……僕の話聞いてた?』」
球磨川はそう言って俺を睨んだ。悲しげではなくなって、俺はほっと胸を撫で下ろす。球磨川の感情はいつも窺い知れない。だからこそ、俺は球磨川の表情を気にする。少しでも本心に近づきたくて。

俺は球磨川を無視して話を続けた。
「浴衣持ってたら着てこい……っていいたいとこだが、ないよな?」
「『僕を無視して先に進めんな!』」
「あーお母さんなら作れるかな……お前の制服作ってたしいけるか。俺のも頼もうかなぁ」
「『ちょっと!!だから行くって決めてない!!』」
球磨川がそう吠えた。
俺はなら、と続けた。

「行きたくないのか?」
すると球磨川は俺をバッと見て暫く睨み、そして俯いてこう呟いた。

「『……行きたくないわけ、ないだろ』」

よかった。合ってた。
俺は頬が緩むのを自覚した。球磨川は頬を赤くさせて、小さくぶつぶつと呟いていた。
「まるで初デートに行くときみたいだな」
と俺がからかうと、球磨川は頬を赤くさせて、
「『僕はいつでも緊張してるんだよ。察しろよな』」
と呟いて黙りこくってしまった。
……からかったつもりだったのに、自分の方が恥ずかしいのはなんでだろう。




***

俺たちは花火大会の場所に移った。球磨川は初めて着たという浴衣に悪戦苦闘しつつも俺の後ろをしっかりとついて歩く。それが微笑ましく感じるのは、惚れた弱みだけではないと思う。

(無理やり着せたとはいえ、学ラン以外はレアだよな……)
俺はそんな球磨川の珍しい姿を目に焼き付けようとして視線を移すと、球磨川はなぜだかまだ緊張していて、俺をちらりと窺った。
「どうした?」
球磨川に問うと、彼は困ったように笑った。
「『なんだかさ、やけに緊張しちゃってさ。なんでだろ』」
球磨川はふぅ、とため息をついた。
俺は無言で促す。
「『花火見物でデートってさ……馬鹿にしないでよ?……青春って感じ、じゃない?』」

球磨川はまたちらり、と俺を見て顔を背けた。
俺は思わずぷっと吹き出してしまった。しまった、と思った瞬間球磨川はその反応に頬を赤くしてそっぽを向く。だって仕方ないじゃないか、可愛いと思ってしまったんだから。
「『あぁもう……』」
球磨川は俺を睨んだ。俺はそんな球磨川に笑いかけて、その手をとって歩きだした。
「手を繋ぐってオプションつけたらもっと青春じゃないか?」

球磨川は一瞬、
「『バカ』」
と言って顔を怒らせてみせて、でもすぐに笑って俺の手に指を絡めた。
きっと誰もが仲が良過ぎる、と思ってしまうような光景だろうと思って、俺は笑った。そんなのどうでもいいくらい幸せだった。


花火が始まる。
心臓に響くような音とともに、花火が夜空を明るく染め上げていく。
序盤のうちに俺たちは適当に出店で焼きそばやらたこ焼きやらを買って、木陰に腰をおろした。

「『んーおいし……こういうときに食べるたこ焼きってなんで美味しいんだろ』」
そう言ってぱくつく球磨川は俺の焼きそばをちらりと見て、
「『……ねぇ』」
「たこ焼き一個くれるならな」
俺はそう間髪入れずに答えた。
「『……まぁ、いっか。……あ、そうだ』」
球磨川はそう言ってたこ焼きを一つ箸で掴んで、
「『あーん!ほら、口あけて!!』」
俺が黙っていると、
「『……あーん』」
もう一度困ったように言ったのを聞いて、俺は吹き出した。さらに意地悪したくなるようなその反応が可愛らしくて仕方ない。
だけど、と思い直してふっと軽く笑い、俺は球磨川が箸で掴んだたこ焼きをぱくりと食べた。
「『やった!餌付け完了!』」
球磨川は小さくガッツポーズをすると、俺をじぃっと見た。
「……」
球磨川はじぃっと俺の手元の焼きそばを見ていた。そして、期待するような上目遣い。
「『……ねぇ』」

……仕方ないな、と思うくらいに可愛かった。
「あーん」
俺は箸で焼きそばを掴み、球磨川の口元に持っていった。球磨川は目を細めてふへへ、と気の抜けるような笑い声を出してぱくりと食らい付いた。

もぐもぐ、と暫く互いに喋りつつ食べていると、
「『かき氷食べたい』」
球磨川は全て食べおわってからそう言った。
「『今ならみんな花火見ててすぐ買えるから買いにいこうよ』」
球磨川はさっと立ち上がり、機嫌が良さそうに俺の腕を引いて歩きだした。俺は断る理由もなく、球磨川についていくことにした。

「『いちごください!』」
「俺はコーラで」
「私は抹茶がいいな」
「私ブルーハワイ!」


「……へ?」
思わずすっとんきょうな声が出た。球磨川の予想通り、みなまだ花火に夢中で、かき氷屋は人もまばらだった。だからこそその声はよく聞こえた。
「『……めだかちゃん?』」
「む、球磨川と善吉ではないか」
「偶然だね!」
全く同じタイミングで注文した見慣れた二人――めだかちゃんと喜界島がそこにはいた。
「『なんだ君たちも来てたんだね』」
球磨川はかき氷を受け取りながらそう言った。
「まぁ、結構有名な花火大会だしな。箱庭学園の生徒は少ないようだが……」
めだかちゃんはふふと笑って俺たちの顔を交互にみた。そして喜界島の方を向く。
「仲が良くて何よりだ。なぁ喜界島会計。私たちも」
「えっ、あ、あぁ!うん!」

そのアイコンタクトに、俺と球磨川は顔を見合わせて苦笑した。阿久根先輩が不憫だ。
俺たちはめだかちゃんと喜界島と別れて、先ほどの木陰に戻った。

俺はその道すがら、球磨川がパクパクと氷を食べている様子を微笑ましく見ていた。『初めて食べるよ』とかなんとか言いながら、あっという間に食べてしまう。俺が見ているのに気付いて、球磨川は口を尖らせた。
俺はその球磨川に見習ってかき氷を食べた。俺もよく考えれば久々にかき氷なんか食べる。今日の花火大会も毎年スルーしていたし。

「……今日来れてよかったな」
そう思わず呟いた。
「『え?』」
「毎年来てないしな、花火なんか何年ぶりだろ」
「『……僕は初めてだよ?』」

球磨川はきゅっ、と俺の袖を握った。視線は空に向けたままだった。

「『……綺麗だね。ただの炎色反応の寄せ集めなのに。綺麗に感じる』」
球磨川はそう言って微笑んだ。不思議だね、なんでだろう。そう呟く。
「……確かに理科の実験の延長みたいなもんだけどさ。でも、花火には……恥ずかしい言い方するなら、人の思いとか、覚悟とか、……そんなん背負ってるから、綺麗に見えるんだろ」
「『……僕にも、それが分かるようになったってこと?』」
球磨川は、俺をふっと見つめた。

「お前がそう思うなら、そうなんじゃねぇの?でも……俺的には出来れば今言った理由だけじゃなくて、さ」
球磨川はきょとん、と首を傾げた。
「好きな人と一緒に見てるからって理由もほしいところだけど」

流石に気恥ずかしくて顔を背けたら、
「『……善吉ちゃんも、花火が綺麗って思える?僕と一緒に見てても』」
球磨川はそっと身体を俺に預けた。
俺は腰に手を回して抱き寄せる。浴衣独特の衣擦れの音が、花火でうるさいはずなのに聞こえた。
「……もちろん」



かき氷のせいだろうか。ひんやりと冷たくてほんのり赤みの差したその唇は、ひどく甘くて夏の味がするな、と思った。

お前と二人で、夏を過ごせてよかったよ。出来れば、これからも。
そしてもっと出来ることならば、球磨川がそう思っていることを祈って、俺はぎゅぅと抱きしめる力を強めた。


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