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いくつくらいだったかな…4歳か、5歳か…多分そのくらいからだったと思う。
夢を見るようになったの。もちろんそれまでだって夢は見てたんだけど、不思議な夢。
夢の中の“あたし”は、髪も瞳も真っ黒で、お父さんもお母さんも違う人なのになぜか顔はあたしとそっくりだった。
“あたし”は共働きで忙しい両親のかわりにいつも遊んでくれたおじいちゃんが大好きで、幼稚園や小学校から帰るといつもおじいちゃんと遊んでいた。
ポケモンはアニメとゲームでしか見ることがなくって、頭の片隅でいつも悔しいようなさみしいような、何とも言えない気分になったよ。
ああ、話が逸れちゃったね。そう、そのおじいちゃんも中学校に上がるころに病気で死んじゃって…そっから“あたし”は荒れだした。学校をさぼったり、夜遅くまで悪い子たちとつるんで帰らなかった。…怖かったの、おじいちゃんのいない家に、誰もいない家に帰るのが嫌だったんだ。でもね、荒れてた“あたし”を更生させてくれた人がいた。レディース上がりの自警団を名乗るやつらの頭だとか抜かした子は、その肩書に似つかわしくない温和な笑顔の女の子だった。唯一それらしいといえば金髪だったことだけど、それも不良とつるんでた“あたし”から見れば、どうみたって無理に染めたんじゃなく生まれつきの色にしか見えなかった。
その子は“あたし”より少しだけ年上で、とてもカチコミに来たとは思えないおっとりとした笑顔でこう言ったよ。
「あなたたち、ちっとも楽しそうじゃないわね。ならどうしてこんなところにこんな時間まで、特に何もせずにいるのかしら」
正直高度な喧嘩の売り方だなってあたしは思ったし、“あたし”は人の気も知らないで何言ってんのこいつって思ってた。そこにいた全員が似たり寄ったりな気持ちだったんだろう、みんなでこいつをボコろうって気持ちが一つになった。……でもその子、顔に似合わずめちゃめちゃ強くて誰もかなわなかったんだ。みんな喧嘩慣れしてたのに。
「…そこそこ強いって噂では聞いていたのだけれど。そうでもないわねぇ」
「アンタが…規格外すぎんだよ…なあ、どうやったらそんなに強くなれんの?」
そう聞くと“あたし”の方を見てニッコリわらったその子は
「きっと、一番大事なのは笑顔でいること。楽しくないと何も身につかないもの。それから、たくさん学ぶこと。知恵は時として力よりも強いわ」
それからその子はぶちのめした全員に向かってこう言った。
「帰る場所が、居場所がほしいのなら、うちに来なさい。こんなところでたむろしてるだけの、無為な時間の使い方はおやめなさいな」
その日から“あたし”達は自警団に入ることにした。強くなりたかった。あの子に近づきたかった。あの子…先輩は、どんな時も笑顔で、強くてしなやかだった。みんな憧れてたし、信頼してた。大人からの信頼も篤かったっけ。
“あたし”は先輩に近づくためにその日から頑張った。笑顔で、自分らしく生きようって。勉強は少し苦手だったけど、先輩は“あたし”が理解するまで根気強く教えてくれたから嫌じゃなかった。近所のおばちゃん達も挨拶したら返してくれるし、たまにお菓子をくれたりもした。先輩に会ってから、おじいちゃんが生きてた時みたいにまた楽しくなってきた。
でも、そんな時は長く続かなかった。先輩のご両親が亡くなって、先輩は遠い港町に住んでるおばあさんのところに引き取られることになったから。立つ鳥跡を濁さずといわんばかりに先輩は指示を出して、四代目に“あたし”を指名した。
「今のあなたなら、きっと大丈夫よ。ほかのみんなにもあなたを支えるよう頼んでおいたわ。だから、守ってほしい。ここを、この場所はみんなの帰る場所で、大切な居場所だから……おねがい」
先輩は…結鈴先輩は、さっきみたいな少し困ったような笑顔でお願いしたの。だから“あたし”も絶対守るって、いつか会いに行くって約束したんだ。


「そしたらびっくり、夢に出てきた先輩とそっくりそのままなチャレンジャーがやってきたんだから。しかもポケモン勝負でも強かった」
「…そう。そうでしたか。…あなたは、夢を通して明日菜ちゃんだったから、私を知っていたのね」
「ねえ、敬語やめて?…なんか夢の中の先輩、ずっとタメ口だったから落ち着かないんだ」
「あら、ごめんなさいね。ふふふ、まるで明日菜ちゃんが大きくなったみたい」
「やっぱり、先輩なんだね…ねえ一体どうしてここにいるの?」
アスナさんに言われて、少し言葉に詰まる。
「なぜここにいるのか、それは私にもわからないの…でも、ここに来たことにも、きっと意味があると思うわ。だって」
「「この世に意味のない事なんてない」」
重なった声にきょとんとしてしまうけど、明日菜ちゃんの記憶があるなら私の考えることもお見通しということなのだろう。
「ああ、渡し忘れるところだった。はい、ヒートバッジ」
「ありがたく頂戴します。ふふ、もう無理に威厳高く振舞おうなんてしちゃダメよ。あなたらしく笑顔でいればいいのだから」
「やっぱり先輩は先輩だー。あ、トレーナーってことはポケナビも持ってるってことだよね?連絡先交換しよう?」
「ええ、よろこんで」

翌朝、ポケモンセンターで全快した皆と約束を果たすためトクサネに行こうとしたらアスナさんが見送りに来てくれた。
じゃあまたねー!というアスナさんの声を背に受けながら、綺羅(PCに帰ってからお名前タイムを開いてつけた、エアームドのお姉さんの名前だ)の背に乗せてもらう。さあ、帰ろう。

   

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