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青年は麓の町に住んでいるらしく、勝手知ったる様で近くの喫茶店に案内してくれた。
「自己紹介がまだだったな。俺は夏目貴志。こっちは用心棒のニャンコ先生だ」
なれているのかペットOKなのか気になるところではあったが何も言わず先生の水まで運ばれてくるあたり黙認はされてるのだろう。
「泉ほのか。この子は知らない。気づいたらいつもいる、多分付喪じゃないかしら」
運ばれてきたコーヒーに手をつけながら互いに自己紹介をはじめる様はなかなかに滑稽だ。
「それで、あの竜は一体何なんだ?」
「何なんだ、と言われても…夏目先輩は泉鏡花の夜叉ヶ池はご存じ?」
夜叉ヶ池?と首をかしげる先輩。どうやら知ってはいないらしい。
夜叉ヶ池のあらすじと、白雪が抜け出てしまったことをかいつまんで説明するとようやく合点がいったようで
「じゃああれは本から抜け出たってことなのか」
「そう。で、暴れるといけないからこうして足を運んでいるわけ」
一縷の望みをかけニャンコ先生に戻し方を聞いてみたけれどもそんな事例は知らんと一蹴されてしまった。
「ただ、おれの知り合いに専門家っていうか…その、祓い人なんだけど。事情を話せば協力してくれるかもしれない」
祓い屋に相談すれば祓われてしまうのではないかと思う私をよそに先輩はああでもなんて説明したらと悩んでいる。
「先輩って、ずいぶんと親切なのね」
「えっ、だって泉は困ってるんだろ?」
まあそうなんだけど普通にただ視えるってだけの共通項でここまで親切にするなんてそうとうなお人好しだと思う。
「困ってるときは助け合うものだろう?…それともいらないおせっかいだったかな」
ずーんとうなだれる先輩。
「いえ、感心してただけ」
すくなくとも私なら放っておくから、という言葉はのみこんで。
「でも多分なんとかなるわ。そんな気がする」
気がするってアバウトな、と突っ込む先輩をよそに喫茶店をでる…無論コーヒー代は置いてきた。
その後も二葉ダムへ通ううちに夏目先輩とも親しくなるとはまだ、この時は思ってもみなかった。

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