「感心しない」

意識を失って崩れた身体を片腕で抱えながら、キラーの口調には痛ましさと苦々しさが半々に混ざっていた。隣ではキッドが、成功すると分かっている悪戯を企むような楽しげな顔をしている。ろくなことにならない兆候だと、キラーは投げやりに溜息をついて哀れな人魚を見下ろした。

「捕まえたはいいが、こんなもの連れ帰ってどうするつもりだ」

「飼うんだよ。風呂場にでも突っ込んでおけばいいだろ」

「犬の世話ひとつしたことがないお前がか?また女中に面倒を見させることになるだろう……悪いことは言わないからやめておけ、どうせ三日もすれば飽きる」

「うるせえな、三日も気が紛れるなら儲けもんだろ。……なんだこれ?」

「……薬、か?」

トスンと砂の上に転がったフラスコは、力の抜けたローの手から滑り落ちたものだった。思いのほか重量のあるそれを拾い上げ、月に透かすようにして眺めながら、キッドは何事かを思案している。ときおり細かな気泡の立ち昇る青い液体は、それ自体が外を覆うガラスよりもなめらかに磨き上げたような艶やかさだった。はっきり言って、およそまともなものには見えない。開封した途端に何が起きても可笑しくなさそうだとさえ思えて、そんなもの海に捨ててしまえとキラーが促すよりも早く、あろうことかキッドはきつく捻じ込まれているコルク栓に爪を立てた。

「っ、おい!まさか飲むつもりか!」

「アホか、なんで俺が飲むんだよ。だけど見た感じは飲み薬みてえだし、お前もなにが起きるのか興味あるだろ?」

「悠長なことを言っていないでさっさと……」

怪しげなものであればあるほど、この馬鹿ならば笑いながら一息に呷りかねない。仮にも一国の王子に目の前で死なれては堪ったものではないと苛立たしげにフラスコを奪おうとするキラーの手をかわし、キッドはぐったりと項垂れたままの人魚の顎を掴んで上向かせる。ポン、と軽い音を立ててコルクが宙に弾き飛ばされるのを、哀れな従者は絶望と諦めの混じった複雑な気分で眺めることしかできなかった。止める間もなく、コバルトの液体が一口分、キッドの口腔に含まれる。それはそのまま淀みなく、薄く開かれたままの人魚の唇に移された。
変化は劇的だった。薬と同じ色をした魚の半身が、砕いた星屑をちりばめたようにキラキラとした光に覆われていく。青と銀が混じりあい、なだらかだったシルエットが奇妙に歪み始めた。意識の無い人魚は、それでもひどい苦痛に浮かされているように額に汗を浮かべ、だらりと力なく垂れていた腕で宙を掻いてもがいている。縋るものを求める指先がキッドの襟元を掠め、だらしなく結ばれていたタイを引っ掛けて砂浜に落とした。咄嗟にその手を取ってやると、細身に似合わない力でぎゅうぎゅうと握り締められた。まるで陸に打ち上げられた魚そのもののようにはくはくを唇を開き、声にならない悲鳴を上げる生きもののあまりに痛々しい様子が胸を刺して、手の甲に爪が食い込まされて血が滲むのも気にならなかった。暴れる体をキラーの腕から奪い取り、背中と膝裏を抱えてしっかりと抱き直す。頭を撫でてあやしてやろうとして、ふと気付いた。膝裏?
見ればキラーも唖然とした顔で、食い入るように尾びれのあった場所を見つめている。

「……足生えたぞ、おい」

「……あぁ、足だな」

「……どうすんだよこれ」

「……もう俺は知らん、どうとでも好きにしろ」

長い付き合いで、この幼馴染に匙を投げられるのも何度目か分からない。自分の足元に十本以上は転がっているだろう銀のスプーンが月明かりをキラキラと弾いて、打ち寄せる波にあっという間に攫われていった。




さてこれからどうしようか、というのが率直な心境だった。物事に迷いを持たないキッドにしては珍しく、途方に暮れていたといってもいい。まさか全裸の人間を捨てておくわけにもいかず、連れて帰って寝台に押し込んだはいいものの、既に面倒だと思い始めている。人魚珍しさにちょっかいを掛けたはずが、あっという間に何の変哲もない二本足の人間になってしまった。これでは面白みも何もあったものではない。常識人であるキラーが聞いたら「本当にお前は最低だ」と眉を顰めそうなことを考えつつ、カットの美しいグラスに注いだブランデーを呷った。舌にわずかに残っていた甘苦いような不思議な薬の味を、強い酒精が溶かして流していく。
ふと、背にしていたベッドから衣擦れの音を拾って振り向くと、一対の青い瞳が羽毛布団の隙間からこちらを窺っていた。

「目が覚めたんならとっとと声掛けろ」

つかつかと歩み寄り、キャベツの葉でも剥くように羽根布団を引き剥がすと、全裸の元人魚は怯えたように跳ね起きてベッドの端まで後ずさった。ひどく混乱した眼で部屋を見回し、キッドを殊のほか警戒しているのが手に取るように分かる。その様子に少しだけ愉快な気分になり、キッドは唇の端を吊り上げるようにして、自分でも人が悪いと分かっているやり方で笑って見せた。このやせっぽちの青年は、自分が捕食される側だと理解している。立場と身の程をわきまえた者は好きだった。

「気分はどうだ、どこか痛むか?」

「……ここどこだ」

「うちの城だよ。そう怯えんな、なにも今すぐとって食おうってわけじゃねえ」

「……見た、よな」

「あ?」

「おれの、その、尻尾……」

「あぁ、そんなことか。まぁチラッとだけな。すぐ無くなっちまったし」

「え……?」

そこでようやく、自分の体の異常に気付いたらしい。寝起きとはいえずいぶんと鈍いとキッドが呆れている間に、海の水を掬い上げたような色の瞳が大きく見開かれ、薄い唇がわなないた。たった今オーブンから出したばかりのような傷ひとつない滑らかな脚にぺたぺたと触れ、呆気にとられた顔でキッドを見上げる。あし、あしが、人間の、と言葉を覚えたての赤子のようにたどたどしく訴えている。

「……なんで、え、なんで…?だって薬は……、そうだ、薬っ…!」

「あー…悪い、飲ませた残りは零しちまった」

「……飲ま、せた?」

うろたえる青年は、明らかに説明を求めている。しかし、特に紆余曲折と呼べるほどのものもないのだ。面白そうだったから、と白状するのはさすがに些か気まずかった。あまりにもあっけなくシンボルの尾びれを失った人魚は呆然と二本の脚を見下ろし、そうか、と言ったきりだった。頭が現実に追いついていないのかもしれない。
ほんのりと鱗の名残をとどめているように青白く細い脚が無防備に投げ出され、キッドは思わず手を伸ばして造り物めいた滑らかな皮膚を指先でなぞった。何ひとつ引っかかりのない、ひんやりと冷たく柔らかな肌だ。ふくらはぎから膝までスルスルとたどり、太腿を掌でそっとさすると、薄い腹筋がひくりと震えてわずかに体を引かれる。爪先が汚れひとつないシーツを掻いて皺を作る様はどこか不埒で、喉の渇きをもたらす光景でもある。
腹の底からどろりと澱んだものが這い上がる感覚に、キッドの赤い瞳がスゥと細まった。けれど当の人魚は一変した雰囲気に気づいているのかいないのか、内腿を這う手をぱしりと捕らえ、そこをじっと見つめた後、困惑したように首を傾げた。

「な、なぁ…これ、なんだ…?」

「は?なんだってそりゃあ……あぁそうか、お前半分魚だったもんなぁ、付いてたわけねえか」

「付いて…?」

「……見んのも初めてか?じゃあ一から教えてやるよ」

ローがもう少し世間ずれしていたら、あるいはここでキッドの素性を尋ね、ドフラミンゴの忠告を思い出していたら、獰猛な笑みを浮かべて自分に覆い被さってくる男に大人しく身を委ねるようなこともなかっただろう。しかし良くも悪くも温室育ちの上、なによりローはひどく混乱していた。「教えてくれる」というのだから、右も左も分からない初めての陸の上でそれはむしろありがたい申し出で、跳ね除ける理由などなかったのだ。
キッドの手が白い太腿を少し開かせ、柔らかな内側をまた何度か撫でる。あまり肉付きはよくなく、付け根は少し筋張っている。ローは擽ったそうに身をよじったが、逃げ出す気配はなく、不思議そうにキッドの手を見つめるばかりだ。脚の間の性器はまだぴくりとも反応していない。髪と同じ色の陰毛が淡く茂り、キッドはそれを指先でつまんで軽く引っ張った。あまり気持ちのいい感覚ではないのだろう、わずかに眉を顰めて嫌がる素振りを見せる。

「こういうのも全然見たことねえか」

「……ない」

「ある程度の年なら人間には皆ある」

「お前にもか?」

「ユースタスだ」

「ユース、タス…?」

「俺の名前だ。『お前』はやめろ、誰かに聞かれたら卒倒されんぞ」

「…ユースタス屋」

「なんだそりゃ」

妙な呼び名だと思ったがキッドはさほど気にも留めず、目の前にある細い首筋に齧りつき、強く吸い上げた。深海でろくに日に当たったことがないのだろうか、どこもかしこも魚の腹のように白い。くっきりと鮮やかに残る鬱血に満足し、鎖骨、胸元、と順繰りに唇を落としていく。潮の匂いと僅かな塩辛さが舌に残り、そういえば海から引き上げたまま湯も使わせていなかったと気付いた。あとで風呂に入れてやる、と囁いて薄い耳朶を舐め上げれば、心持ち息を弾ませ始めたローが「ふろ?」と幼子のように繰り返す。

「…ユースタス屋……なんか、変な感じだ」

「それでいいんだよ」

脇腹をゆっくりと撫で上げ、乳首を唇で挟んでやると、ローの体が大袈裟に跳ねた。軽く歯を立てれば柔らかかった突起がみるみるうちに芯を持ち始める。舌先で転がし、圧迫するように押し潰し、強弱をつけて噛んでやる。そのたびにぴくぴくと体を痙攣させ、ローはいつしか両手でキッドの頭を抱え込み、まるでねだるように胸元に押し付けながら、それはいやだ、だめだ、変になる、と口先ばかりの拒絶を繰り返していた。震える指がそっとキッドの髪に絡み、梳くようなゆるやかさで引っ張られるのが心地よかった。
乳首が真っ赤に腫れあがり、痛々しくも見える歯形が刻まれていく。ユースタス屋、と掠れて泣いているような声が幾度かキッドを呼んだ。小鳩のように早いリズムを刻んでいる心臓の上にキスをしながら、「お前の名前、聞いてなかった」と促せば、うまく頭が働いていないのだろう、なにか異国の言葉で話しかけられたように逡巡し、幾拍か置いて「……ロー」と小さな返答があった。「トラファルガー…ロー」唾液に湿った唇からあたたかい吐息と共にこぼれるその名は、どこか淫靡なものにも聞こえた。

「そういやお前、人間なりたてって事はこっち精通もしてねえんじゃねえの?」

「…ぅ、あ、なに…っ、」

「…ちゃんと使えるみてえだし、問題ねえか」

断言できるが、これに触れるのは自分が初めてだと思うとひどく愉快だった。ロー自身の指すらまだ絡んだことがない性器はきちんと熱を持って膨れ上がり、濡れている。ゆるく勃ちあがりかけたものを握りこんでやれば手の中でぴくりと跳ね、ローが呼吸を引き攣らせた。気持ち悪い、とべそをかくような声で訴えられ、そのくせ両手はキッドの頭を抱いたまま押し退けようとすらしない。抱えたつむじに鼻先を埋めるようにしてローが縋り付いてくる。「やりにくいだろ、見えねえよ」と苦笑しても、火照った頬を擦り付けてくるばかりだ。きもちわるい、とローが泣き声で繰り返す。不規則に震える腰は、逃げ出したいのか続きをねだっているのか曖昧だった。与えられる慣れない感覚に戸惑う様子が小さな子供のようだと思った。まだ羞恥すらきちんと理解できていない幼子に、どうしようもなくいかがわしい事を教え込んでいる。あたたかく濡れたつるりとした先端を指の腹で捏ね回し、小さく開閉している尿道にそっと爪を立てると、ローの体が一際大きく跳ね上がった。

「…い、た…っ…!」

「痛ぇだろ。こうされんのと、さっきみてえに撫でられんの、どっちがいい?」

「……さっき、の」

「気持ち悪いんじゃなくて気持ちいいっていうんだよ、これは」

「…ん…でも、分かんな…っ、」

「すぐに慣れる。痛くされんのよりずっといいだろ?」

「…うん…」

「もっとして欲しいか」

「…っ、もっと……」

「じゃあ気持ちいいって言ってみな」

笑いながら促すキッドの声にからかうような気配を感じたのかも知れない、ゆるゆるとかぶりを振って、ローは体に溜まった熱を逃がすように何度も深く息をついた。

「……やっぱ…いや、だ…」

「して欲しくねえの」

「だっ…て、こんなん…叱られる…」

「叱られる?誰にだよ」

「……」

「…いけねえことされてるって自覚は一応あんのか」

そろそろ離せという意味をこめて薄っぺらい胸を押せば、襟足に絡んでいた指はあっさりと解けた。早鐘のような心臓の音がなくなってしまったのが少し物足りない。
ローは飽きずに脚の間を弄っているキッドの手を、溶け掛けた飴玉のような眼で見つめている。首筋から胸元にかけていくつも鬱血を散らし、散々噛まれた乳首は痛々しく腫れていた。キッドがしていたようにそっと指先で突起を押し潰してみると、たちまち腰が重くなるような痺れが走った。性器から零れ続ける透明な体液には、ときおり僅かに白濁が混じる。もう少しで初めての射精を味わえる、その甘ったるい本能の訴えがローには空恐ろしかった。こんなところをドフラミンゴに見られたらきっと「悪い子だ」と詰られる、そんな気がする。ローには甘いあの魔法使いが半分だけ真面目な声でそんなことを言うときは、それは本当にしてはいけないことなのだ。細く長い息を必死に吐きながら、体の奥からせり上がってくるものを必死に耐えた。
ローの瞳に新しく盛り上がった涙を見て、キッドは少しだけ面白くなさそうに鼻で笑った。

「素直になっといた方が楽だぞ」

じれったさで音を上げるほどゆっくりと手を動かしながら、ことさら優しい声で促した。あとからあとから零れる体液を塗りこめられてローが息を乱す。もう出してえだろ、と甘く潜めた声で、口元は笑っていたが、眼はどこか獰猛さを残してローの反応を面白がっている。まるで千年も昔から人を誑かし続けてきた悪魔のようだった。

「…面倒くせえなぁ、一人前に意地張りやがって」

「だって、お前が…こんな…っ」

「最初くらいはいい思いさせてやろうと思ったんだけどな……まぁいい、ここまできたら放っといても勝手に出るだろ。ほら脚開け」

「……なに、」

「教えてやるって言ったろ。大人しくしてろ」

両脚を限界まで広げさせられ、あまり体の柔らかくないローが不安そうな顔をする。勃ち上がった性器を伝ってシーツまで濡れている光景に、キッドは乾きかけた唇を舐めた。どこか空腹にも似た興奮を覚えている。ローは何をされるのかまるで理解していないのだろう、汗ばんだ太腿の裏を舐められて隠しきれない性感に喘ぐばかりだ。息苦しそうなローに合わせるように、唯一肉らしい肉の付いた尻の奥で小さな孔が収縮している。ぬめりのある体液で濡れたそこを円を描くように指の腹でさすった途端、爪先までびくびくと痙攣させ、ローがとっさに脚を閉じようともがいた。びゅくりとまた性器から少量弾けた雫がキッドの手を濡らす。それを押さえつけ、指を一本強引にねじ込む。反射できつく食い締まったが、半分まではすんなり入った。

「痛っ…いてえ、よ…!なにすんだ…っ、やめ…!」

「大人しくしてろっつったろ」

「…抜け、よ…!」

「抜かねえよ。少しは慣らさねえと入んねえぞ」

「……なにが、」

「なんだと思う?」

よほど楽しそうな顔をしていたのかもしれない、ローは怯えた顔で唾液を飲み込み、なんとか異物から逃れようと腰を引こうとする。皺が寄るほどシーツを握ってるその手を取って、キッドは先ほどからだいぶ苦しくなっている己の股間に宛がった。驚いたようにびくんと震える指の小さな動きすら、甘い疼きになって蓄積されていく。自分より僅かに小さい掌に何度もそこを押し付けて、うろたえるローの目許に唇を寄せそっと舐めた。

「どんな風になってるか想像してみろ」

「……知らねえ…!」

「目の前にてめえのがあんだろ。触らせてやってんだから想像してみろよ。どんぐらい勃起して涎垂らしてんのか、てめえみたいに」

「…っ……」

「それを今からここにぶち込むんだ。慣らしてやんなきゃ可哀想だろ」

「……う、嘘だ」

「嘘じゃねえよ」

「だ、だって…っ、無理だそんなの…!入るわけ…!」

「うるせえな……初めてのやつは大体みんなそう言うんだよ。穴が開いてりゃちゃんと入る」

「…いや、だ…っ、なんでこんなことすんだよ…!」

「人間になりたかったんじゃねえのか?あんな薬持ってたってことは」

「…っ、なりたかった、けど……」

「だったらせいぜい楽しめよ」

中途半端に入っている指を押し込むと、無理やり広げられる入り口が引き攣れたのかローが苦しそうに体を強張らせる。力を抜くよう促しても頑なに首を振るばかりで埒が明かない。

「しかたねえな……口開けろ」

「…なに…っ…」

「いきなり挿れられんのは怖ぇんだろ?口に含んでみろ、多少の感覚くらいは掴めるだろ」

細かな細工の施されたベルトが無造作に引き抜かれ、毛足の長い絨毯に放られて小さな音を立てた。目の前に初めてむき出しの他人の性器を突きつけられ、ローは眼を見開いて硬直する。想像してみろ、とキッドの猫撫で声が耳の奥で反響したが、こんなのは違うとどこか絶望的な気分がした。赤黒く血管の浮いた、凶暴そうな印象すら与える肉だった。少し濡れている先端を唇に押し付けられる。熱いぬるりとした粘膜が、なけなしの抵抗をこじ開けて押し入ろうとしてくる。いやだと眼で訴えたが、キッドはただローを見下ろして笑うばかりだ。

「いい子だから口開けろ。上手にできたらやさしく扱ってやるよ」

逃げられないように後頭部に掌が添えられた。許してくれる気配のない力だった。引き結んだ唇を強引に割られ、食い縛った歯列をなぞられる。舌出して舐めてみろ、と先ほどより強い口調で命令され、ローは恐る恐るほんの少しだけ口を開く。差し出した舌の先端が性器に触れ、ぬるい体液を僅かに舐め取った。ひどい味と生理的な嫌悪感にえづきそうになる。顔を背けようとしたがキッドが許すはずもなく、掴んだ頭を押し付けられるようにして張り詰めた肉を押し込まれた。
悲痛な声を上げるローに構わず、到底入りきるはずもないものが口の中を一杯に満たした。舌の付け根を押し潰し、喉の一番奥まで当たっているに違いなかった。こみ上げる嘔吐感に胃から喉にかけてが激しく痙攣する。限界までこじ開けられている唇の中にさらに親指をねじ込み、噛みつかれないように顎を固定しながら、キッドは震える舌となめらかな口蓋で形作られた擬似的な膣の感覚を楽しんでいた。技巧のかけらもない、満足に咥えていることすら困難な拙さだったが、薄い唇をグロテスクな性器が出入りする様は支配欲の類をそれなりに満足させてくれる。
ぼろぼろと涙をこぼして噎せるローを宥めすかし、自ら口を開こうとする努力が見てとれればやさしく頭を撫で、ピストンを浅くしてやった。出入りする性器に舌の表面を擦られるたび、ローはもどかしそうに腰を揺らす。先ほどまで萎えかけていたそこはまたすっかり勃ちあがり、先端から糸を引いて透明な雫を垂らしていた。ここからは見えないが、きっとその奥の孔ももの欲しそうにひくついているのだろうと、眼を細めて柔らかい青い髪を幾度も撫でる。ローの唇がきゅう、と性器を締め付け、それに合わせるように収縮する濡れた孔を想像した。この懸命でへたくそなフェラチオよりももっと狭く熱く、貪欲さだけは一人前にしゃぶりついてくるのだろう。顔を真っ赤にしたローが苦しげに泣きじゃくりながら懇願を繰り返し、必死にキッドを貪る様が見たかった。
くちゃり、と自分の腰よりもっと下から水音が聞こえた。我慢しきれなくなったのか、ローが片手で自分の下肢を慰めている。その先に何があるのか知りもしないくせに、生まれたての人間の本能に急き立てられるように。濡れた瞳が上目遣いにキッドを見ている。見られていることを意識しているのか、ローの肌がうっすら粟立っていた。いい、好きにしろ、と頬をさすってやれば、恥ずかしげに眼を伏せてまた少し深く咥え込もうとする。苦しがる寸前まで詰め込んで、ことさらゆっくり形を教え込むように引き抜いてやった。嫌がる素振りは見せるくせに、ローは出て行く性器を舌全体を使って味わい、粘膜と粘膜が擦れ合う感覚に背筋を震わせている。「気持ちいいか?」と先ほどは頑なに口を閉ざされた問いをもう一度投げると、ひどく躊躇いがちに、小さく小さく頷いた。

「初めてにしちゃあ旨そうにしゃぶるじゃねえか、なぁ」

「…ん、ぁ……ふっ…」

「そのまま動くなよ」

ひときわ強く喉の奥を抉り、勢いよく抜かれた性器を、ローは呆然と蕩けた眼で見ていた。その上気した頬に二、三度先端を擦りつけ、だらしなく開かれたままの唇に向けて射精した。
熱い飛沫が口元をべったり汚すと、ローは一瞬うろたえたような顔をして、慌てて吐精を続けている性器にかぶりついた。これにはキッドも少々驚いたが、単にローはどうしていいのか分からなかったのだろう。口の中で暴れ回るものに必死で舌を絡ませて宥め、叩き付けられる精液の味に噎せている。吐き出してしまえばいいのに、先ほどまでキッドに教えられていたことを従順にこなそうとする様子に苦笑して、最後の一滴まであたたかい口腔が搾り取るに任せていた。




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